約 2,288,019 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4698.html
最近キョンの様子がおかしい。 何だろう、私に隠しごとがあるような。特に理由があるわけではないけど、なんとなくそんな気がするの。こういう時は直接聞くに限る。 「ねえ、キョン。私に隠しごとしているでしょ」 キョンは一ノ谷から駆け下りる源義経を見た平家のように動揺している。 「いきなり何を言い出すんだ。別に何もねえよ。」 「正直に言いなさい」 「母が次の中間テストで成績が悪かったら予備校に行けってうるさくてな。成績が悪かったらどうしようかと思い、憂鬱なのさ。」 「ふうん。あんたは勉強の仕方が効率悪いのよ。そう言えば来週数学の小テストがあったわね。今度、私が指導してあげるわ。」 「ああ、頼む。」 「ところでキョン。最近どう。元気にしてるの。」 どうもこうも、授業中も放課後もいっつもおまえの前にいるだろ。俺が元気かどうかなんて言わんでもわかるだろ」 「私の知らないところで変わった経験をしたとか、宇宙人が歩いていたとかそういうのはないわけ。普段、しっかり周りに目を配っていたら1つや2つ見つけられるはずよ。あんたそれでもSOS団の団員なの」 「あのな。ハルヒ。そんな体験がごろごろ転がっているわけないだろ。」 私はキョンが一瞬動揺したのを見逃さなかった。 「おまえこそ変な体験をしたことはあるのかよ」 「うーん。そうね。」 心当たりがないわけではない。私だって1つぐらい奇妙な体験をしたことがある。でも、言わなかった。 「まあ、いいわ。不思議な出来事は簡単には見つけられないの。ありふれた日常でもじっくり目を懲らすと転がっていたりするものよ。常に気を引き締めて周りに気を配りなさい。わかったわね。」 キョンは「やれやれ」とでも言いたそうな顔をしていた。 不思議な体験ねえ。もうあれから4年も経つのか。 放課後、いつも通り部室に行く。 部室に入ると、キョンと有希が何かを話していた。キョンは私が部屋に入ってきた途端、話をやめ椅子に座り、有希は私を一瞥してから、本を開ける。何を話し ていたんだろう。みくるちゃんはメイド姿でお茶くみをしている。私は机に座りパソコンに電源をつける。そしてお茶を飲み、メールとホームページのカウン ターをチェックしてからネットサーフィンをする。宇宙人も超能力者もいない、不思議で奇怪な体験も存在しない。SOS団を結成してもうすぐ1年。毎日繰り返されるSOS団的日常。けどそれはそれで楽しかった。そういえば最近のキョンの様子がなにか変なのよね。ここ数日ずっと感じる違和感。予備校の話は本当なんだろうけど、他にも何か隠しているわね。キョンが私に隠さなければいけないことってなんだろう。 と考えていると古泉君が部室に入ってきた。 「どうも、遅れてすみません。」 そうして、団員全員が揃った。 揃ったから何もする訳でもないのだが。私は今日明日に適当な記念日がないかネットで調べたりしていたが「日本気象協会創立記念日」とか「長良川鵜飼開きの 日」とかばっかりでイベントができそうな記念日も見つからなかった。まあいいわ。来週にはビックイベントをしないといけないしね。 キョンは部室を出て行ていく。三者面談があるらしい。 三者面談というのは、先生と生徒とその保護者の3人で進路のこととかを話し合うというくだらない行事で、2年生は5月のゴールデンウィーク明けから実施されている。 しかし暇だわ。なんかすることないのかしら。 そういえば、朝比奈ミクルの冒険DVDの仕上げをしようと思っていたんだわ。キョンがいないし丁度いいわ。DVDのジャケットを決めるためみくるちゃんの写真を何枚かピックアップして画面に表示させる。どれがいいかしら。このメイド服も色っぽいけど、かえるの写真も意外にいけるわね。 「古泉君、あなたはどれがいいと思う?参考までに聞いてあげるわ。」 古泉君が画面を覗きこむ。 「そうですね」 その時ドアが開いた。 「何やってんだ。」 キョンだった。 キョンは不機嫌そうな顔をしている。それを見た古泉君は微笑しながらパソコンから離れていく。 「写真を見ていただけよ。あんたこそ面談じゃなかったの。」 「前の人が長引いていて、まだ順番が回ってこないようだったから部室に戻って来たんだ。」 「そう。」 「で、何やってたんだ。」 キョンがパソコンを見る。隠し通してもよかったが、変に勘ぐられるのもなんだから全部正直に言ってやった。 「そんなもんいつ作ったんだ。俺は知らんぞ。」 「あんたがいない間に作ったのよ」 キョンは古泉君を一瞬睨み、私に 「DVDの発売はまずいだろ。」 「なんで?」 「そんなもん、発売してみろ。あっという間に広がってしまう。朝比奈さんの日常生活に支障が出るだろ。とにかく駄目だ。」 「あんたがなんと言おうと発売するわ。あの映画はSOS団全員で作り上げた汗と涙の結晶。後世に残す芸術作品だわ。みくるちゃんだって承諾しているわ。」 みくるちゃんは捨てられた子犬のような目でキョンを見てぶるぶると首を横に振る。 「だめだ。朝比奈さんも嫌がっているじゃないか。朝比奈さんはグラビアアイドルでも、おまえのおもちゃでもないんだ。だいたい、なんで映画と関係のないセクシー映像が必要なんだ。何がSOS団全員で作り上げた汗と涙の結晶だ。DVD化に俺は参加していないし、そもそもやることするら聞いていない。」 みくるちゃんのことになるとムキになるキョンをみて私も腹立ってきた。 「いちいちうるさいわね。私が発売するって言ったら発売するの。みくるちゃんは私のおもちゃよ。みくるちゃんに決定権なんてないわ。とにかく売り出すのよ。」 キョンの顔がみるみる内に赤くなる。 「こんな“くそ”映画、売り出す価値もない。」 かっちんときた。“くそ”映画。 「ふざけんな。SOS団の総力をあげて作り上げた映画に対して“くそ”はないわ。でてけ!!!」 キョンは部屋を出て行った。 なんなの。あいつ。 椅子に座り、パソコン画面を眺めた。 あー、むかつく。映画作りはあんなに協力的だったのに。“くそ”映画はないでしょ。 キョンは映画作りは楽しくなかったのかしら。 「涼宮さん」 振り返ると心配そうな顔で古泉君が私をみていた。 「彼も本心から映画を罵倒した訳ではないと思いますよ。彼の映画作りに対する情熱は涼宮さんにも負けず劣らぬものでした。にもかかわらずその映画のDVD化の話が自分の知らないところで進んでいたらどう思うでしょうか。」 私はパソコンの画面の方向に目線を向け、返事はしなかった。 「涼宮さん。彼は強情で意地っ張りです。彼は楽しいことでも「楽しい」と声に出しません。素直じゃないんです。彼も反省していると思うのですが、素直に謝ることができない人間なんです。ですから」 古泉君は言いにくそうに言葉を選んで話していた。 「わかってるわよ。」 古泉君の言うとおり。本当にあいつは頑固なんだから。仕方ないわね。私が謝るしかないわね。 しばらくしてキョンが部室に戻ってきた。面談が終わったようだ。 「ハルヒ。」 「何よ。」 「すまなかった。」 「そう。うん。」 ぱたん。有希が本を閉じた。有希が本を閉じる音はSOS団活動終了の合図になっていた。世の中にはタイミングというものがある。いくらこれをしようと考えていてもタイミングを逃してしまうとどうしょうもない。私もキョンに内緒でDVDを作ろうとしたことを謝ろうと思っていたが、どうもそのタイミングを逃してしまった。と、都合のいい理屈をつけてごまかす自分が情けない。謝ろうとは思っているんだけど。結局いつもうやむやになってしまう。 下校はいつも通り。私とみくるちゃんが先頭。後に有希。最後尾にキョンと古泉君がいる。有希のマンションの前でみんなと別れた。 たしかに私も悪かったわ。団員を仲間はずれにするなんて団長として失格ね。明日はちゃんと謝ろう。はあ。大きなため息が自然とでた。 と、ここで私は数学の参考書を学校においてきたことに気づく。宿題は小テストの日までにやればよくまだ余裕があるけど、キョンに教える前に一通り問題を解こうと思っていたんだった。仕方ない。私は学校に引き返えした。 私が有希のマンション前を通ろう としたとき、私はさっき別れたばかりのキョンを見た。あいつも忘れものかしら。このタイミングを逃してはいけない。今度こそ。ちゃんと謝ろう。私は小走り でキョンに近づき、声をかけようとした。しかし、キョンの行き先が学校でないと分かりやめた。キョンは有希のマンションに入っていく。え。どういうこと。 なんでキョンがマンションに。 なんか有希の家に行く用事があったのかしら。いや、でも変だわ。それならどうして私たちがマンションの前を通った時、直接マンションに入らなかったの。まるで、SOS団の誰かに知られたらまずいことでもあるような行動。すっごく嫌な予感がした。でもそれは、実は去年のクリスマスからうすうす感じていたそんな恐怖だった。 オートロックのドアが開きキョンは中へと消えていく。 私は坂を登るのをやめ、家路についた。キョンはいつから、有希のことを思うようになったんだろう。いや、まだ決まった訳じゃないしね。そう自分に言い聞かせる。 なぜか胸が締め付けられる。なんで私はこんな気持ちになるのだろう。はじめて自分の気持ちを気づいた。いや正直に言うわ。本当はずっと気づいていたの。気づいていたけど気づかないふりをしていた。私はキョンが好きだった。 翌日の放課後、部室に行くと誰も来ていなかった。定位置に座り本を読む有希を除いて。 「他のみんなは来てないの。」 「……」 私は椅子に座り、パソコンの電源をつけた。 「キョン達はまだなのかしら。遅いわね、何やってるのかしら。」 パソコンのファンの音が部屋に鳴り響いた。 「ねえ、有希」 「……」 「有希ってどんな本読むの?」 「いろいろ」 「好きなジャンルとかあるでしょ。」 「特に」 「恋愛小説とかは読むの」 「たまに」 「そういえば、有希のタイプの人ってどんな人なのよ」 「……」 「やさしい人、頼りになる人?」 「……」 「古泉君みたいな人は?やさしいし、しっかりしてそうじゃない」 「彼はとても立派。」 「そう。じゃあキョンは?あいつは気が利かないし頼りないけど。」 「……」 有希は何も言わず本に目を落とした。 私が何を言うか思案しているとドアが開く。キョンだった。 「よう」 私はネットサーフィンに忙しいふりをする。 古泉君とみくるちゃんはなかなか来ない。 無音が続いた。 私は心に決めていた。キョンに気持ちを伝えよう。もしかしたら迷惑かもしれない。 でも、私はこの気持ちを自分の中だけにしまい込むことはできそうにない。キョンが有希を選ぶならそれでいい。 とにかく私の気持ちを伝えたかった。2人きりになったときに言おう。学校帰り、みんなが解散した後が狙い目かしら。 沈黙を破るように扉が開く。 「遅れてすみません。面談がありまして。」 古泉君が入ってきた。 みくるちゃんも今頃、面談をしているのかしら。ちなみに私もこれから面談だ。 「そうそう、明日、土曜日は不思議探索ツアーをするから。北口駅9時集合ね。」 キョンの表情が曇る。 「いきなり言われても困るぞ。」 「何言ってんの。団長命令は絶対よ。参加しなさい。」 キョンはまだ怒っているのかしら。 「そうですね。やりましょう。最近やっていませんでしたから楽しみです。」 そう言ったのは古泉君。それを聞いたキョンは古泉君を一瞬睨みつけたが、承諾した。 私は部屋を出る。今日は三者面談の時間だからだ。 面談が終わり、部室に戻る。扉を開けようとしたとき中から声が聞こえてきた。キョンの声だ。 「どういうつもりだ。なんでOKしたんだ。明日の朝9時集合だと。あほか。」 「涼宮さんが集まると言っているんです。仕方ないでしょう。」 「俺たちは忙しいんだ。やらなきゃいけないことだってたくさんある。そんな暇つぶしにつきあっている暇はない。たまには断ってやってもいいだろう。」 「まあ、いいじゃないですか。」 「どうしておまえはハルヒの言うことをそうほいほい肯定するんだ。朝比奈さんも何か言ってやってください。」 「えーと、その、まあ。涼宮さんが決めたことだから仕方ないと思います。」 「やれやれ」 私はその場に立ちすくんだ。帰ろうかな。ドアノブに手をかけた状態で静止し続ける訳にもいかず扉を開ける。 キョンと古泉君はオセロの真っ最中だった。とりあえず椅子に座り、パソコンに電源を入れ、起動を待ちながら頭の中で整理する。 「俺たちは忙しいんだ。」キョンの言葉がフラッシュバックする。なにが忙しいよ。有希の家に行くのが忙しいっていうの。 それに古泉君とみくるちゃんまで。 みんなはSOS団の活動を楽しんでいる。そう思っていた。いや、楽しんでいるかどうかなんて考えもしなかった。 世界中どこにでもある平凡な毎日。不思議も何もない日常。そんな日常を変えようと必死でがんばってきた。世界一面白いクラブを作ろうとそう誓った。 SOS団は世界一面白いクラブだろうか。楽しいと感じていたのは私だけだったのかもしれない。 「そうそう。」 私は思い出したように言った。 「急用を思い出したわ。明日の活動は中止だから」 キョンも古泉君もみくるちゃんも、一瞬表情が変わった。有希までも読書を中断してこっちを見ている。 そんな顔をされるとこっちまで不安になってくるじゃない。 「安心しなさい。また近いうちに活動をするから。」 「楽しみにしています。」 古泉君が笑顔で言った。気を遣ってくれたのかもしれない。 「すみません。ちょっとバイトがありまして。帰らせていただきます。」 古泉君は突然そう言うと部室を去った。 そうこうしているうちに下校時間になる。パタン。 私は考えた。SOS団の団員は私のことをどう思っているのかしら。SOS団のことをどう思っているのだろうか。 今まで「みんながSOS団の活動を楽しんでいるか」なんて考えたこともなかった。 私は誰よりも面白い高校生活を送ろうと思った。世界で一番楽しいクラブを作ろうと思った。そして、そうなるように行動したつもり。 でも、それは私の自己満足だったのかもしれない。この1年私は1人で盛り上がり1人で空回っていたのだろうか。 宇宙人も未来人も異世界人もでてこない平凡な日々。SOS団ってなんなんだろう。SOS団なんてやめようかな。 キョンやみんなと映画を作った日が懐かしい。徹夜で映画の編集作業をしてくれたキョン。 今はSOS団の活動より、有希と一緒にいる方が楽しいのかな。 脱力。という言葉がぴったり合う。私は何もしたくはなかった。テレビを見ても音楽を聴いても、上の空だった。そうして何もせず休日は過ぎ去った。 月曜日。よっぽど学校を休もうかと考えたが、学校には行くことにした。始業時間ぎりぎりに学校に行き、休み時間を告げるチャイムが鳴ればすぐに教室を出た。授業は頭には入らず、ずっと雲を眺めていた。 放課後、部室に行くことにする。団長が無断欠席するわけにはいかないし。 部室に入ると誰も来ていない。いつも部屋の隅で本を読んでいる有希さえ来ていない。有希の座っている椅子に手紙が置いてある。 涼宮ハルヒ様へ 明朝体で書かれた字は有希が書いた字で間違いない。私は手紙の封を切った。中には一枚の紙があり、そこにはこう書かれていた。 私の家に来られたし。 なんだろう。果たし状?なわけないか。私に何か話しでもあるのかしら。 私は、椅子に座り誰か来るのを待ったが、だれも来なかった。5分と経たないうちにだれもいない部室に1人でいることに耐え切れずへやから飛び出した。気が進まないけど仕方がない。私は有希の家に向かう。 有希の家に行きインターフォンを鳴らす。 ドアが開き、有希が出てきた。 「入って」 私は伏魔殿に入るかのごとくおそるおそる中に入る。家の中は暗かった。前が見えないぐらい真っ暗なのだ。まだ外は明るい。不自然というか、意図的に暗くしたとしか思えない。 「こっち」 明かりもつけず真っ暗な廊下をまっすぐ歩く有希を追って中へ進む。手から汗が噴き出した。真っ暗なリビングに入ったとき、 パパン 轟音がなり、部屋の明かりが突然ついた。 え。 「ハルヒ。今までありがとう。」 クラッカーを持ったキョンがいた。 「これからもよろしくお願いします。」 と古泉君。 「おめでとうございます」 みくるちゃん。 つくえの上にはケーキや料理がところ狭しと並んでいた。 中央に陣取っている巨大ケーキには、 祝SOS団結成1周年 と書かれている。部屋は飾り付けをしていて、お祝いムード一色。リオデジャネイロのカーニバルに負けないほど賑やかな部屋だった。 このサプライズパーティーについて古泉君が説明してくれた。 「いつも涼宮さんが楽しいイベントを企画して、僕たちを先導してくださっていました。おかげで僕たちはいつも楽しませてもらっています。涼宮さんには感謝しきれません。ですから、SOS団結成一周年の今日ぐらいは役割を交代して、僕たち団員が団長を驚かせようと考えたわけです。 料理は朝比奈さんと長門さんが担当しました。ケーキも含めてみんな手作りですよ。僕たち男2人は部屋の飾りを担当しました。実を言うと、ここ数日、SOS団の活動が終わった後、涼宮さんに内緒で長門さんの家に集まって準備をしていたんです。休日返上でした。正直、涼宮さんが土曜日に不思議探索をやると言ったときにはどうしようかと思いましたよ。」 さらに古泉君は私にしか聞こえないような小さな声で言う。 「ちなみにこのパーティーを発案したのは彼です。」 古泉君は普段の2割増の微笑を浮かべていた。 饒舌な古泉君に対して、キョンは私に話しかけてくることさえしなかったが、時折私の顔色をうかがいたいのか、ちらちら見てくる。 私はあふれる笑みを抑えることが できなかった。無理もないわね。ここ数日感じていた違和感。胸のつかえが一気にとれたんだから。ここ数日キョンの様子がおかしかった理由。キョンが有希の 家に行った訳。不思議探検の実施を嫌がったことも、今ならわかる。理由はたった1つだったのだ。 もちろんSOS団結成一周年のことを私も忘れていた訳ではない。以前から盛大に祝おうと考えていた。けど最近立て続けに起こった出来事のせいでイベントをやる気持ちも失せていたのだ。 私はみんなに言った。 「みんな、ありがとう。」 私は緩んだ顔を引き締める。 「実を言うと、私は一度だけSOS団を解散しようと思ったことがあるの。私は世界一面白い仲間と世界一面白い活動をしようそう思ってこの団を作ったの。でも本当にそうなんだろうかって。宇宙人も未来人もやってこない。別に不思議な出来事もおきない。SOS団の活動もどこにでもある日常なんじゃないかって。 けど私はそう考えた自分を恥ずかしく思うわ。みんなに申し訳ない。SOS団は間違いなく世界一の団体。だって世界一のメンバーが集まっているんだもの。 みんなと出会えて本当によかった。本当にありがとう。 みんな、これからも私についてきなさい。今まで以上に盛り上げるわよ。 そうよ、常に前年を上回らなければいけないもの。 みんな覚悟しなさい。明日から激務が待っているから。」 その後、ケーキに1本のローソクを立て、ハッピーバースディを歌い、みんなで一緒に息を吹きかけ火を消した。そして乾杯してからみくるちゃんと有希の手料理に舌鼓をうつ。 有希は小さい体でよくこれだけ食べられると関心するぐらいもりもりもり食べ、みくるちゃんはメイド姿じゃないけど、ぱたぱたと動き回っていた。つくえにのりきらないほどの料理をみんなで平らげ、食後は古泉君が持ってきたツイスターやジェンガで盛り上がった。 日が沈み暗くなり私たちは解散し た。私は1人夜道を歩いている。暖かくなったといってもまだ夜は肌寒い。私は1つの決心をしていた。キョンにちゃんと気持ちを伝えよう。キョンが有希の家 に向かう姿をみて自分の気持ちに気づかされた。あれは杞憂だったが、今後心配が具現化するとも限らない。もうあんな気持ちにはしたくない。私はキョンが好 きなのだ。たぶんあいつだって。 私は携帯をポケットから取り出した。キョンと会って話をするために。
https://w.atwiki.jp/haruhi_best/pages/31.html
涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム 今日も地球は凍えそうに寒い。 アリのように勤勉なシベリア寒気団によって、日本列島は寒さに震えていた、というのが言いすぎだとしても、俺が寒さに震えていたのは間違いようもなく事実だ。 「……寒いね。キョン、手、つないでもいい?」 ああ。俺はハルヒの冷たい手をとると、自分の手と一緒に、コートのポケットの中に突っ込んだ。 「ふふ、キョンのポケットの中、あったかいっ」 ハルヒは、にっこりと笑うと、ポニーテールを揺らして、俺に体をぴったりとつけた。反対の手には大荷物を抱えているが、ハルヒは嬉しそうにそれをブンブン振り回している。 俺は、その上にセリフが書き込めそうなほど、真っ白な息を空中に吐き出した。 「いっやあ、いつ見ても、おあついなぁ、お二人さんよぉ!」 後ろからアホの声がすると思ったら谷口だ。ハルヒは、停止を示す信号のようにパッと顔を赤くすると、谷口に噛み付く。 「馬っ鹿じゃないのっ!寒いからこうしてキョンで暖まってんじゃないのっ!!そんなんだから、あんた、いっつもテストが赤点ギリギリの低空飛行なのよ。あんた、ちょっとはキョンを見習ったらっ!?」 「くうっ……キョン、なんでお前はそんなに勉強ができるんだ……頼む、俺にも秘訣を教えてくれ」 テストの話題が出た瞬間、谷口はシュンと空気を抜いた気球のようにしぼんでしまった。恨めしそうに俺の方を見る。 「……特にないな、スマン」 まさか、ハルヒの起こした時間のループのせいで、学校の科目はどれもこれも既に習っているから、とは言えまい。 クリスマスまで、一週間を切った12月18日―― いつもと変わらないような朝。 それは、すでに、密かに始まっていたというべきなんだろうか? 『ループ・タイム――涼宮ハルヒの消失――』 このループする一年間、俺と長門は、SOS団のさまざまなイベントを、懸命に蜜を集める働き蜂のようにこなしてきた。 SOS団が二年目に入ろうとしたとき、なぜか突然時空改変を起こしたハルヒが、「やり残したこと」のためにもう一度ループさせてしまうことがないようにだ。 その結果、朝倉涼子がSOS団に加入したり、ハルヒに代わって長門が文化祭の映画の監督をやったりと、さまざまな部分で変更点が生まれてしまった。 だが、まあ、これまではなんとかSOS団としての活動をこなして、ハルヒを満足させてこれたかな、と思っている。 だが、一つ。 俺としては決して繰り返したくないことがある。 もちろん、長門の世界改変だ。 世界改変後の世界で出会った、眼鏡をかけた、内気な文芸部員の長門。 その長門に向かって銃を構えた時の、長門の怯えた表情。 今でも、その小さな姿がくっきりと記憶の底に焼きついて残っている。 まあ、ついでに言えば、情報統合思念体の急進派が派遣した朝倉涼子に、腹をぐりぐりとぶっ刺されたことも、強く記憶に残っているが。 こっちの記憶のほうは、長門によって無害に再構成された、今の朝倉を見ていると、どんどん薄れてきているのが幸いだな。 「どうしたの、キョンくん、ボーッとして……?」 文化祭で作ったウエイトレス衣装で、胸の前にお盆を抱えた朝倉涼子が、俺の顔を覗き込んでいた。 おっと、いかん、SOS団の会議をはじめなくちゃな。 「えーと、今年もSOS団恒例の、クリスマス鍋パーティーを行う」 ニヤニヤ笑うハンサムエスパーは、ちょっと肩をすくめた。 「まだ、結成してから一年経たないのに、恒例の……ですか。なるほど」 うるさい、クリスマスといえば、部室で鍋パーティーだ。これは一年前からの既定事項なんだよ。 それに、長門の改造によって、部室にはほぼ完璧なキッチンが設置されている。これで料理をしないのはいかにももったいないじゃないか。 ちなみに、女子用の更衣室も小さいながらある。まさに至れり尽くせりのSOS団である。 「鍋ぇ!?クリスマスなのに?まあいいけど。あ、あたし、蟹は嫌だからね。あれ、身をほじくるのが面倒くさいったらありゃしないんだからっ!いっそのこと――」 「……甲羅まで食べられる蟹は存在しない」 はい、長門、その通り。先手を取られて、ハルヒは、うっと言葉を詰まらせる。 「有希……。まだ、何も言ってないじゃない」 「だが存在しない」 「むー……」 ハルヒが例のアヒル口になった。SOS団の部室は暖房設備が行き届いているとはいえ、さすがにこの季節だバニーガールの衣装では寒すぎる。ハルヒは北高の制服姿だ。 「ハルヒ、それより、持ってきたものがあるだろ」 俺の言葉に、ハルヒはスイッチを切り替えたようにパッと顔を輝かせると、朝の大荷物をごそごそとかき回した。 「うんっ!クリスマスグッズ揃えてきたわっ!!クラッカー、ローソク、ミニツリー、雪だるま人形、モール……あ、あったあった!みくるちゃんっ、これっ!じゃじゃーんっ」 ハルヒが得意満面で取り出したのは、もちろん、サンタクロースのコスチュームである。 こちらは季節と関係なくメイド姿の朝比奈さんが、ビクリと体を震わせる。 「ふえぇ、ここここれ、下のズボンはないんですかぁ?み、短いかと……」 「当然っ!!さ、着替えてきなさいっ」 サンタ服を押し付け、朝比奈さんを更衣室に放り込んだ後、ハルヒはごそごそと、とんがり帽子を取り出し、ふかふかの椅子に深く腰を沈めて本を読んでいる長門の頭にポンと乗っけた。 やれやれ。と、俺は溜息混じりに苦笑した。こんなところまで一年前と同じだな。 パラ、と長門がページをめくる。巫女さんの衣装に、いつもの無表情。 ……だが、心の中では、何を考えているんだろう? 『……改変の恐れはない』 そうか……すまん、なんだかんだ言って、気になってな。 『万が一、私が改変を行ったとしても、あなたは、一年前と同じように行動すれば良いだけ。問題ない』 ……お前が、緊急脱出プログラムを組まない可能性は? 『大規模な時空改変が起きたとき、涼宮ハルヒたちSOS団員が部室に集合することで、緊急脱出プログラムを起動させるよう、既にパソコンにプログラムしてある。 その場合、時空改変の起こる一時間前の私の部屋に、あなたを転送するようセットした』 まるでシステムの復元だな。 『そう』 やれやれ。そこまで長門が用意していてくれたら、心配することはなさそうだな。 『もし、改変が起きたら、文芸部の私に、やさしくして欲しい』 もちろんだ。怖がらせるような真似はしない。あと、改変防止のプログラムは、出来たら銃の形はやめてくれ。あっちの世界の長門が怖がっていた。 『考えておく。……あと』 なんだ? 『ゴムを付けてくれれば、改変を行った私との結合を許可する。やさしくしてあげて』 俺が反論の言葉を考える前に、長門は電話を切った。 ゴムの用意か……はっ、いかん、いかん!あっちの世界の長門を襲うなんてことができるかっ! さて、翌日。 朝出会った谷口は、しっかりと白いマスクをしていた。いつもは陽気な谷口が、流行の重い風邪でどんよりと苦しんでいるようすは、見ているこっちも辛いものがある。 やれやれ。 俺は日本海溝のように深い深い溜息をつく。 昨晩の長門の言葉に反して、しっかりと改変は行われたようだ。 まあ、俺があたふたと騒いでも仕方がない。周りの人間に、痛い痛い電波を受信しているやつだと思われるのがオチだ。一年前の経験が、そう教えてくれる。 今回は、長門がきっちり緊急脱出プログラムを組んでくれていることだし、その発動条件も分かっている。 ハルヒ、朝比奈さん、古泉、長門、俺、朝倉、六人のSOS団メンバーを文芸部室に連れて行けばいい。 まあ、焦ることはないさ。フライパンに乗っけられたアヒルみたいにうろたえるのはごめんだ。 クラスで風邪が流行っていてどうのという谷口の話にも、俺は適当にあわせて相槌を打つ。 教室に入ったら後ろの席にはハルヒが居ないんだろうな。おそらく、古泉と一緒に別の学校に飛ばされたはずだ。 ……そうだ。丁度いい、確認しておくか。 「谷口、涼宮ハルヒって知ってるか?」 「知ってるもなにも、ゴホ……東中出身であいつのことを忘れてるやつがいたら、まず間違いなく若年性のアルツハイマーだな。断言してもいい。 面のほうは、すっげえ美人なんだが、とにかく頭の中が年中あったかくて……」 「いや、涼宮の武勇伝はいい」 俺は谷口を遮る。 「今、そいつはどこの高校に行ってるんだ?」 「光陽明学院だよ……。駅前の進学校だ。ゲホ、あいつ、頭はおかしいのに成績はよかったからなぁ……」 やれやれ、間違いなさそうだ。 「なんだぁ、キョン、どっかで涼宮に一目ぼれでもしたかぁ?忠告するぜ、やめとけ」 谷口、ニヤニヤしてるのが、マスク越しにもわかるぞ、気持ち悪いからやめろ。 「お前の女房が悲しむじゃねえか、だろ?」 女房? なぜかエプロンをつけた長門の姿が頭に浮かんできて、あわてて頭を振って打ち消した。 教室に入ると、ハルヒが座っているべき俺の後ろの席には、ポニーテール姿の美人委員長、朝倉涼子が座っていた。 ……まあ、想定の範囲内だな。 俺が入っていくと、朝倉は飛びっきりの笑顔で出迎えてくれた。一年前とはえらい違いだ。 まあ、当たり前といえば当たり前か。いまの朝倉は、長門が無害化して再構成した、普通の高校生だからな。 「おはよ、キョンくん!」 「ああ、おはよう。朝倉、風邪は大丈夫か?」 朝倉はちょっと顔を赤らめて、にっこりと微笑んだ。ポニーテールがふわふわ揺れる。うーん、やっぱり朝倉にはポニーが似合う。 「うん、ようやく治ったみたい……心配してくれてたの?」 嬉しいな、と小さく呟くと、朝倉は、頬を染めながら、俺の耳に口を寄せた。 「……ね、今日、一緒に帰らない?おでん作ったから、晩御飯、食べさせてあげる」 おでん、おでんか……ああ、よだれが出そうだ。一年前、朝倉が作ってくれたおでんは、死ぬほど旨かった。そして、実際そのあと死にかけた。 「ちょっと、放課後、用事があってな。そのあと、お前の家に行ってもいいか?」 「ううん、じゃあ、この教室で待ってる。キョンくん、用事って?」 「文芸部に仮入部」 朝倉涼子はまじまじと俺を見つめて、亀が甲羅を脱いで走り出したかのを目撃してしまったように、実に意外だという表情をした。 やれやれ、そんなに俺は本を読んでいるイメージがないのかね? 放課後、部室棟に向かう途中、朝比奈さんと鶴屋さんが仲良く向こうから歩いてきたのに行き当たった。 こんにちは、朝比奈さん…… 「……?えっと、どなたでしたっけ……」 しまったっ!朝比奈さんは俺のことを知らないんだったっ。 鶴屋さんが、まじまじと俺の顔を見つめて、何かを悟ったかのように、ポンと手を打ち合わせた。 「ははあ、少年っ!さてはみくるファンクラブの会員だねっ!?うん、一年生かなっ?」 鶴屋さん、相変わらずのハイ・テンションだ。だが、ナイスフォローです。 「……ま、そんなとこです。キョンとでも呼んでください」 とたんに、朝比奈さんは顔を赤らめる。恥ずかしがってプルプルと首を振る仕草が可愛らしい。 「ふえ、そそそんな、ファンクラブだなんて……その、あ、ありがとうございます……えっと、キョンくん……?」 一年前、朝比奈さんが心底怯えて、俺のことを拒絶する目で見ていたことを考えれば上出来だ。俺は笑顔をつくって頷いた。 「おやおや、みくるっ!赤くなっちゃって、可愛いなっ!!あはは、キョンくん、うちの娘をよろしく頼むさっ!」 「つつつ鶴屋さんっ!もうっ」 朝比奈さんが顔を真っ赤にして、プッと頬っぺたを膨らます。 「また、そのうちお会いするかもしれません。そのときは宜しく」 「あ、はぁい。さよなら、キョンくん」 「じゃあねっ、少年、大志を抱きなっ!!」 文芸部のドアの前で、俺は一つ大きく深呼吸をした。 久しぶりの、こちらの世界の長門有希との再会だ。頭に、眼鏡をかけた内気な文学少女の姿が浮かんでくる。 俺はドアに手をかけ、思い切ってドアを開けた。するとそこに―― いた。 長門有希。 座っていた粗末なパイプ椅子から立ち上がって、じっと俺を見つめる、驚いたような表情。 その端正な顔には、眼鏡が―― あれ? 眼鏡が――ないぞ。 ど、どういうことだ?俺はまじまじと長門を見つめ、一年前との違いにようやく気が付いた。 手に持っているのは分厚い本じゃなく、薄っぺらな新聞。そして傍らに置いたラジオ。イヤホンが片耳に伸びている。 そして、眼鏡のつるがかかっているべき耳には―― 赤鉛筆だ。 俺は絶望的な気持ちで溜息をついた。 競馬狂、長門有希がそこにいた。 俺がいきなり入ってきたので、一瞬立ち上がった長門は、すぐまた椅子に戻り、視線を競馬新聞に落とした。まるでスプーンを曲げようと試みる5歳児のように真剣な目つきだ。 「あのー、長門、さん?」 長門は、ちら、とこちらに、草むらに隠れた路傍の石でも見るような視線を送った。 「なに」 それっきり、また競馬新聞に没頭する。 「ちょっと、その……話があって……」 「あと」 戦場で聞かされたら、相手の戦意を完全に断ち切るような即答だ。 「レースが始まるから」 長門は、イヤホンに片手を当て、ラジオから流れる実況に耳を澄ましているようだ。 やれやれ……。 俺はひょいと、長門の手元にある競馬新聞を覗き込んだ。びっしりと赤鉛筆で、予想やデータが書き込まれている。相変わらずのきれいな楷書体だ。 と、そこで昨日の記憶がフラッシュ・バックする。 たしか、昨日、SOS団の巫女さん長門も競馬新聞をチェックしていた。何でも、今世紀四番目の大穴がでるから、資金をまわすとか……。 あいつの場合は、実際に結果を知っているのだから、予想ではなくただのインチキなのだが。 はて、そのとき、長門が赤丸で囲んだ馬は……たしか……。 「……長門さん、この、アサクラアサシンって馬が一着になると思うぞ」 長門有希は、幸運を呼び込む壺を売りにきたセールスマンを見るように、胡散臭そうに俺をみて、ばっさりと袈裟切りで切り捨てるように断定的に言う。 「ない」 「いや、でも……」 長門はやれやれといった表情になる。古泉だったら肩の一つもすくめるところだ。 「不可能。無理。素人考え。……火傷をする前に馬はやめたほうがよい」 このやろう……いいだろう。未来を知っている人間の強さを見せてやるよ。 「…………………」 レースが終わり、長門有希は三点リーダを大量生産しながら、俺の顔を穴が開くほど見つめている。 その視線は、先ほどまでの、石ころに向けるような無感動なものから、うって変わって、驚嘆と尊敬に満ち溢れてきらきらと輝いている。 「……師匠」 こら、誰が師匠だ。 調子を狂わせられっぱなしの俺は、ようやく本題を切り出した。……とはいえ、この分じゃ期待はできないがな。 「あー、長門、お前、俺と会ったことがあるか?」 「ない、師匠」 そうか……やはりな。こちらの世界の長門有希が、読書狂じゃなくて、競馬狂になっているんだから、図書館で俺に出会った記憶がないってことは、まあ、不自然じゃない。 「……でも、師匠のことは知っている」 ああ、まあ同じ学校なんだから、見たことぐらいはあるだろう―― 「師匠は、私と同じマンションに住む、朝倉涼子の婚約者」 「あ、いたいた」 そのとき、当の朝倉涼子が、ドアを開けて文芸部室に入ってきた。 い、今、長門はなんと言った?婚約、俺と朝倉涼子が? 谷口の言葉が頭を掠める。女房。あれは、朝倉のことだったのか。 朝倉はにこやかに、黙り込んでしまった俺を長門に紹介する。 「長門さん、こちら、キョンくん。知ってるよね、あたしと同じクラスの……。彼、文芸部に入りたいんだって」 その一言で、長門は、納得したようにこっくり頷いて、パタパタと棚に歩いていくと、入部届けの用紙を持ってきて、俺にさしだした。 「今、部員は一人」 長門は、ちょっと頬を赤らめた。そして、微かにだが、笑ったように見えた。 なんだか、あれほど見たいと思っていた長門の笑顔さえ、異質なものに思えてしまう。 変だぜ、この世界。競馬狂? 「師匠で、二人目」 俺と朝倉と長門は、三人で朝倉の家まで帰った。 うーむ、思考が上手く働いてくれない。あと、長門、頼むから師匠って呼び方はやめて欲しい。 朝倉が俺の腕に、ごく当たり前のことのように自分の腕を絡めてきたのも、俺の思考を停止させるのに一役買ったと思われる。 これじゃまるで恋人同士じゃねーか――と、突っ込んでみても、事実、この世界ではそうなのだから仕方がない。恋人どころか、既に婚約しているのだ。 SOS団にいるときのような、少し翳のある笑顔ではなく、心の底から喜んでいるようないい笑顔をつくる朝倉涼子の顔を見ていると、なんだか、俺のほうまで変な気持ちになってくる。 まるで、ずっと前から朝倉が恋人だったような―― やめろ、俺。元の世界にかえれば、俺にはハルヒがいるだろうが。 しかし…… 俺はちらりと横を見る。 長門は、すっかり尊敬のまなざしで、俺のことをその黒曜石のような瞳でじっと見つめている。 そう見るなよ、俺には予想師の才能なんてまるでないんだから……。 「師匠、聞いて欲しい」 なんだ、長門? 「この長門有希には夢がある――いつか、馬主になりたい。自分の馬で、レースを勝ち抜いてみたい」 ……その馬につける名前も、もう決まっているんだろ? 長門はコックリと頷く。 俺と長門は同時に言った。 『サイレントユキ』 やれやれ。 長門の大食漢ぶりは相変わらずで、すっかり腹の減っていた俺も、朝倉の作ったおでんを貪り食う。うむ、うまい、やはり絶品だ。 あっという間に夕食を平らげると、長門有希は、つと立ち上がった。 「長門さん、帰るの?」 長門は無言で頷く。そして、俺の方を見て言った。 「師匠、また明日、部室で」 そう言い終ると、長門はするりと玄関から出て行った。 「ふふ、意外だな、キョンくんが、長門さんと仲良くなるなんて」 長門を見送った俺に、朝倉が嬉しそうに言った。 まいったね。 いずれにせよ、明日、ハルヒと古泉、朝比奈さん、朝倉を連れて、文芸部室に行けば片がつくことだが。 元の世界に戻ったときに、長門にじっくり話を聞いてみたい。何考えてんだ? 「じゃあ、俺もこれで――」 と腰を上げてかけると、朝倉は助けた亀に殴られた浦島のように、びっくりして目を丸くした。 「ど、どうしたの、キョンくん。なにか特別な用事でもあるの?」 い、いや、そんなものは別にないが。 「じゃあ、いつもみたいに泊まっていくんでしょ?一緒に、お風呂はいろうよ」 お風呂?いつもみたいに?お風呂?一緒に? 急に、朝倉はクリスマスプレゼントが貰えなかった子供のように、悲しそうな目になる。 「……あたしのことが嫌いになったの?だから帰るって――」 「ち、違うっ、違う違う!そ、そうか、そうだな、風呂に入らせてもらおうか」 慌てて力いっぱい否定してしまった。 朝倉は顔を赤くして、下を向きながら言った。 「じゃあ……お風呂場行こう、ね?」 俺が戸惑っている間に、朝倉はするすると自分の服を脱いだ。それがさも当然であるかのように、俺の前に豊かな白い裸体をあらわにする。 「キョンくん、脱がないの?」 「あ、いや、その緊張して……」 実際は膨張だがな。主にトランクスの中が。 「ふふ、変なの、婚約者なのに、いまさら緊張なんて……しかたないな、脱がしてあげる」 「い、いや、大丈夫だっ、自分で脱ぐからっ」 朝倉が屈み込んで俺のズボンのチャックを下げようとしたのを止めて、俺はあわてて、朝倉を風呂場に押し込んだ。 腰にタオルを巻いても、息子の頑張りは隠しようもない。諦めて、タオルは手にもったまま風呂場に入った。 「背中流してあげる」 朝倉は、俺を座らせて、背中に石鹸を塗りたくる。スポンジの感触が背中を這い回り……ってあれ、なんか違うものの感触だ……これは…… 「あ、朝倉、その、胸があたってる」 「そう、こっちが元気になっちゃうかな?」 朝倉は、いたずらっぽく笑うと、俺の股間に手を伸ばした。 うっ、おいよせ朝倉っ、息子をなでなでするな! 「後でたっぷり頑張ってもらうんだもの……ねぎらわなきゃ、ね」 ねぎらう必要なんてない。十分に元気いっぱいだ。こいつは今100パーセント中の100パーセントになっているところだぞ。 朝倉がシャワーで泡を洗い流し、俺が逃げるように湯船につかると、朝倉が後から湯船にはいってきた。 広めの湯船とはいえ、二人で入れば当然ながら、俺と朝倉の体は、ちょうど抱きかかえるように密着した。 「キョンくん……その……硬いの、あたってる……」 朝倉が赤い顔をして呟く。すまん、だがどうしようもない。 「ね、手をまわして……抱きしめて……」 言われたとおりにした。朝倉の体はひどく柔らかい。 朝倉の肩から漂う、石鹸の匂いに、脳みそが融けそうだ……。 朝倉が髪を乾かしている間、朝倉に言われたように、朝倉の部屋で、ベッドに腰掛けて待つ。 さすがに、自分のパジャマが用意されているのを知ったときには愕然としたね。どんだけ入り浸ってるんだ、俺は。 ふとベッドの枕元の方を見ると、そこに―― あった。 シンプルな写真立て。そして、あの写真が。 夏合宿の時に撮った、SOS団の集合写真。困惑したような、朝倉の微笑。 写真を見つめるうちに、融けきった脳みそが、ようやく少し動き出す。 だが、また疑問が増えちまった。 なぜ、この写真は改変を免れた?なぜ、長門は図書館に行った記憶を持っていない? 今度の改変は、一年前のときとどこか違っている。そのことは分かる。 では、どこが違うのか? そこで俺の思考はフリーズする。 やれやれ。 長門有希、一人きりのがらんとしたマンションで、今、何を考えているんだ? 浮かんできた映像は、大量のデータと睨めっこしながら、予想師としての腕を磨く長門の姿だった。 ううむ、緊張感がない……。 パジャマ姿で朝倉涼子が部屋に入ってきた。 「朝倉、この写真、いつ、どこで撮ったか覚えているか」 「え、写真?」 朝倉は、写真立てを取り上げると、しげしげと覗き込んだ。 「変だな……この写真、撮った覚えがないわ……あなたと長門さんと……後は知らない人たちね」 おかしいなあ、と朝倉は首をひねった。 「キョンくん、この人たち知ってる?」 ああ、知ってるさ。明日、お前にも会わせてやるよ。 「ふぅん……ずいぶん仲が良さそうね……」 俺の腕を取ったハルヒの笑顔をまじまじと見つめながら、朝倉がぼそりと呟く。 ひょっとして、やきもちか、朝倉? 「……ばか」 朝倉はプッと頬っぺたを膨らませた。ドスンと俺の横に腰を下ろし、俺の肩に頭をもたれさせる。 俺の心臓はバクバクと鼓動を速めている。 ……さて、どうする? どうしようもない。流れに従うこと以外に、俺になにが出来るだろう? 俺は朝倉の肩に、震える手をまわして、朝倉涼子を抱き寄せた。 「キス、して」 朝倉が目をつぶった。 パジャマを脱がせ、シンプルな白い下着をとると、朝倉が一糸まとわぬ姿が現れた。ふくよかで柔らかそうな体、大きな胸。相変わらず、プロポーションは抜群だ。 「やだ、そんなにまじまじ見つめないで……」 慌てて朝倉が胸を隠そうとするが、腕に圧迫された乳が横からこぼれて、余計に興奮させる。 朝倉も、恥じらいのためだろうか、ミルクのように白く艶やかな肌の胸元を、ほのかに赤く染めていた。 俺は、さらに速く、バクバクと心臓を鼓動させながら、手を伸ばして朝倉の胸に触れてみた。吸い込まれるように柔らかい。 「んっ……」 朝倉がピクンと体を震わせる。さらにピンク色の乳首を触っていると、次第にその突起は硬くなってきた。 「んん……もお……」 朝倉が俺に抱きついてくる。貪るように、朝倉は俺の口を吸った。 「んくっ……ちゅる……ぷはっ……ねえ、キョンくん……」 ん、どうした? 朝倉が赤い顔で、わずかに瞳を潤ませている。 「……今日も、あれ言わなくちゃ駄目?」 あれってなんだ――と言いかけたが、ここは無言で頷いておこう。きっと好きだとか愛してるだとかなんとか、そんなセリフだろ、おそらく。 朝倉は、恥ずかしそうにコックリ頷くと、俺から体を離し、ごろんとベッドに寝転がり、柔らかな太腿の奥にある、自分の茂みの下を広げてみせた。 「キョンくん、お願いします……涼子のおま×こ、な、舐めてください……」 えええええ!? 懸命にそのセリフを言い終わった朝倉を、俺は呆然とした顔で見つめていた。 俺は朝倉に、こんなことを言わせていたという設定になっていたのか……。 朝倉にこんなことを言わせている自分をぶん殴ってやりたい。 いや、そのように世界改変をしたのは、そもそも長門だから…… 「も、もう一回?お願いします……涼子のおま×こを――」 「い、いや、いいんだ、スマン、朝倉!」 慌てて遮ると、俺は朝倉の腿の間に顔を埋めた。 「あんっ……くうっ……キョンくん、いいよお……くぅん」 長門、長門、そっちの世界に戻ったら、じっくり話を聞かせてもらうからな!! 俺は、朝倉の大事な部分に、身を硬くした自分の息子をあてがい、一気に腰を沈めた。 「あはぁっ……うう、キョンくんのが、入ってる……あんっ……」 そのまま、ゆっくりと腰を動かす。 「あんっ……んんっ……気持ちいいよ……キョンくん……」 うう、腰の動きが自然と速くなる。朝倉は嬉しそうな声を漏らした。 「あんっ……あはあっ……いいよぉ、キョンくんっ、あん、あん、あん、ああんっ、気持ちいいっ!!」 下半身に比重の重い液体がたまっていくような感覚。それがゆっくりとせり上がってきて、あふれ出ようとする。 「ああん、ああんっ!!あん、あん、ああん、あはあっ……いっ、いい、いきそお、キョンくんっ」 朝倉が腰をくねらせ、ビクンと体を震わせた。 「あうっ、あはああああああああっ!!!……あふっ……あはっ……ふうっ……」 俺は、達してビクビクと体を震わせている朝倉に口付けをした。 「……大好き」 俺もだ……決して嘘じゃない。 だが……。 俺の居場所はここではないんだ。 「朝倉、ちょっと用事があって、午後の授業はサボるから、放課後、文芸部で待っていてくれないか?」 翌日の昼休み、俺と向かい合ってお弁当を食べていた朝倉涼子は、ご飯を運ぶ箸を止めた。 「うん、いいけど……それって、写真の人たちのこと?」 「そう」 俺はブレザーのポケットから写真を取り出す。今朝、朝倉に言って借りたものだ。 これが切り札の一つになる。そんな気がしたからな。 「キョンくん、成績いいから大丈夫だと思うけど、あんまりサボっちゃだめよ」 朝倉はウインナーを箸でつまむと、にっこりと微笑んで、俺の方に差し出す。 く、口をあけろというのか……クラス中が微笑ましい光景でも見ているように、俺とお前の昼食風景を眺めているんだぞ。 「……食べたくない?」 朝倉が悲しそうに瞳を潤ませる。クラス中から放たれる、突き刺すような鋭い視線が痛い。 俺は観念して、口を開けた。 朝倉が嬉しそうににっこりと微笑む。 「はい、キョンくん。あーん」 うう、俺はなにをやっているんだ……長門、俺に何をさせたいんだ……お前は。 光陽明学園の前で待つこと、二時間近く。 もう少し遅く出てもよかった気もするが、一年前とのズレは看過できないレベルだ。なんかの拍子で、ハルヒと古泉に出会えなかったら痛い。 男子は詰襟、女子はブレザー。共学になった私立学園の、制服姿の高校生たちが次々と下校してくる。 さて、古泉とハルヒが出てきたら、なんと言って話しかけるか? 俺が苦心して適切なセリフをひねり出そうとしているとき―― 出てきた。 涼宮ハルヒと、古泉一樹。 ハルヒの髪が長い。腰まで届くロングヘアだ。そして、入学当初のような、つまらない日常に苛立つ不機嫌な表情。 一年前と変わっていない。金魚の糞のように古泉がくっついているが、さて、こっちの古泉は、ハルヒのことが好きだとかぬかすかね? 「古泉一樹と、涼宮ハルヒだな?」 古泉とハルヒは、キャッチセールスでも見るように、胡散臭そうに立ち止まった。 「ええ、そうですが……はて、あなたはどなたでしょう?」 ハルヒも絶対零度のように冷たい視線を俺に向ける。 「なんであたしの名前を知ってんの?あんた、ストーカー?北高の制服ね……なんの用?ナンパならお断りだから」 視線で殺そうとでもいうのか、ギロリと俺を睨みつけるハルヒ。やれやれ、まあいい。どうせ、言うべきことは決まっているんだ。 「三年前の七夕、お前は学校の校庭に白線でメッセージを書いた」 む、とハルヒが眉をしかめる。 「……それがなんだってのよ、ふん、誰だって知ってるわ、そんなこと」 「聞け。そのメッセージは、織姫と彦星に宛てられたもので、内容は『私はここにいる』だった……」 さっとハルヒの顔色が変わる。猛牛のごとく俺のネクタイを引っつかもうとするハルヒを、俺はひらりとかわす。 「な、なんで読めるのよ……あたしが考えた宇宙語を……確かにそう書いたけど……」 なんで知ってるか、教えてやるよ。だってな…… 「ほっとんど俺が書いたじゃねえか、あれは!」 よし、言ってやったぜ。ハルヒが瀕死の金魚のように口をパクパクとさせた。 「あ、あんた……じゃあ……」 そう。その通り。 「俺がジョン・スミスだ……まあ、キョンってあだ名のほうが慣れてはいるが」 さて、話を聞いてもらおうか。 ハルヒは、呆然とした顔で、コックリと頷いた。 「SOS団か……楽しそうね」 はあ、と涼宮ハルヒは溜息をついた。一方、古泉の方は、相変わらず半信半疑の表情だ。というか、完全に信じてないだろうな、この表情じゃ。 「信じられないか?」 俺は古泉に聞いてみる。古泉は肩をすくめた。 「あなたがジョン・スミスさんである、という確証もありませんしね。北高には、三年前に本物のジョン・スミスさんがいて、あなたは単にその話を聞いたのかもしれません。 その場合、タイム・トラベルを持ち出さなくとも説明がつきます」 「なるほど。ちなみに、俺のいた世界では、お前はガチでホモだったぜ」 「こちらでもそうですよ」 古泉はさらりと流す。 爽やかだがぞっとする。実にぞっとする。 俺はポケットから、かねてからの写真を取り出した。 「じゃあ、これはどう思う?単なる合成に見えるか?」 俺たちSOS団が写っている、この世界では唯一の写真。 古泉は、まじまじと写真を覗き込み、写真をひっくり返し、またまじまじと眺め、やがて溜息をついた。 「お手上げです。まるで本物ですね……この写真の季節は夏ですか?」 「SOS団の夏合宿だ。孤島に遊びに行ったんだよ。俺が平行世界からやってきたことの、唯一の証拠になっちまったが……」 ハルヒも目を丸くして、自分の写った写真を眺めている。 「これが……SOS団の団員たち?」 その通りだ。宇宙人、未来人、超能力者。あと、俺と朝倉が普通人だ。 さて。 「北高にくれば、そいつらに会わせてやれる。どうだ、来るか?」 ハルヒは、全力でブンブンと音がしそうなほどに首を縦に振り、古泉もしぶしぶといった様子で頷いた。 ハルヒと古泉を、朝倉と長門が待つ文芸部に押し込み、「師匠……」「キョンくん……」という声を振り切って俺は書道部に向かう。 ちょっとお話が……というと、朝比奈さんは案外素直に頷いてついて来てくれた。昨日挨拶しておいたことが功を奏したようだ。 俺がドアを開けて、一同、訳がわからない、といった顔をしている文芸部室に朝比奈さんを連れて入ると―― パソコンの電源が入った。 俺はまっすぐパソコンの前に座る。やれやれ、これで任務完了だ。 YUKI.N> これは緊急脱出プログラムである。起動させる場合はエンターキーを、そうでない場合はそれ以外のキーを選択せよ。起動させた場合、あなたは時空改変の機会を得る。 カーソルが言葉を紡ぐ。 YUKI.N> このプログラムが起動するのは一度きりである。実行ののち、消去される。非実行が選択された場合は起動されずに消去される。Ready? 「なんなのこれ?どういうこと?ちょっと、ジョン、説明しなさいっ」 ハルヒがわめく。 「自分の世界に帰るんだよ……」 俺は、長門の顔を見る。困惑した表情。 そして―― 朝倉、涼子。 「キョンくん……どういうこと……ど、どこに行くの……」 怯えた声を出す。泣き出しそうな顔だ。 Enterキーにかけた手が震える。俺だって、この世界が嫌いじゃないさ。 だがな、朝倉。 俺がお前に――本当のお前に会うためには、俺は、ここにいるわけにはいかないんだ。 「キョンくん、待って――」 朝倉の声が聞こえたが、俺は、ぐっと目をつぶって、Enterキーを押し込んだ。 次の瞬間には、俺は長門のマンションにいた。 「あなたを待っていた」 おう、二日ぶりだな長門。といっても、お前は今日俺に会ったばかりか。 目の前の長門有希は、すっと立ち上がった 「時間が惜しい。今すぐ出かける。説明は途中で」 「お、おい、どうしたんだ?」 「道々話す」 俺は長門にものすごい力で引っ張られて、走るように長門のマンションを飛び出た。 「ど、どこ行くんだ?」 長門はワイヤーロックがかかったスクーターに近づくと、高速呪文を唱えてロックを外した。同時に、キーもなしにエンジンがかかる。 「あなたの家。……乗って」 おいまてそれは窃盗だ――という俺の抗議もむなしく、俺が後ろに乗った瞬間、長門は全速力でスクーターを発進させ、俺は後ろに吹っ飛びそうになった。 「スピルバーグの映画では、宇宙人との二人乗りはもっと優雅だったぞ!」 俺は長門の腰にしがみつきながら叫ぶ。 「しっかりつかまって……ブースターモードで加速」 長門がさらに高速呪文を唱え、さらにスクーターは急加速した。 「時空改変を行うのは、朝倉涼子」 俺の家に向かう途中、そう長門が言ったとき、俺は長門の腰にしがみつきながら叫んだ。 「まて、そんなはずはない……だって、今の朝倉にはそんな力はないはずだ!お前が、無害に構成した普通の女子高生のはずだろ!!」 「そう」 長門が呟くように言う。 「だが、情報統合思念体の急進派が、朝倉涼子に干渉した。朝倉の情報操作能力を復元し、その任務を進めようと独断専行……」 朝倉の任務? 「あなたを殺して、涼宮ハルヒの情報爆発を誘発すること」 一年前の、薄く笑ってナイフを構えた朝倉の姿が頭に浮かぶ。 「じゃ、じゃあ、朝倉は、俺を殺すために、俺の家に向かっているってのか!?」 「そう。だが、朝倉涼子は、あなたを殺さなかった。そのかわりに……」 ようやく、俺の頭の中で、すべてのことがつながった。 俺の家の前について、俺と長門はバイクを乗り捨てた。誰だか知らないが、持ち主、スマン。 「間に合った」 朝倉涼子は、まだ来ていないようだ。 長門は、ふと目を伏せる。 「……本来、安全を考えれば、あなたを連れてくるべきではなかった。だが――」 俺にも長門の言いたいことは分かった。 そう、俺が見届けなくてはならないんだ―― この事件の、決着を。 俺は長門に向かって頷いた。 そのときだった。 暗闇の中から、ゆっくりと人影が出てきた。 長い髪、制服のスカートの下に伸びる足、白いハイソックス。そして、凍りついたような薄い笑み。 右手に持った、大型のごついナイフが、電燈に照らし出されて冷たい光を放つ。 情報統合思念体の急進派が、俺を殺すために作成したヒューマノイド・インターフェイス。 朝倉、涼子。 「あら、長門さんじゃない……こんな時間に何をしているの?」 朝倉が長門に問いかける。にこやかな笑顔。だが―― その表情は、薄っぺらの作り物だ。 長門によって再構成された、SOS団団員の朝倉涼子の表情が、俺の頭をよぎる。 困ったように微笑む顔。喜びにあふれた表情。うつむいて涙をこらえる顔。 どれもこれも、作り物の表情じゃなかった。本物の感情が表れた顔だ。 今、目の前にいる、朝倉涼子の、笑顔とは違う。どれだけそれが、笑っているように見えたとしても、こいつの表情は作り物だ。 「あなたの目的は分かっている……彼を殺させるわけにはいかない」 「彼?」 そういった瞬間に、朝倉がピクリと体を震わせた。 「それが私の任務だもの……そうしなくてはならないの。それとも、邪魔する気?」 朝倉の動きがおかしい。 体を小刻みに震わせ、動きがぎこちない。言葉も、微かにどもるような口調になっている。 長門が言う。 「あなたは、蓄積したエラーデータによって正常稼動することが出来ない。……私には勝てない」 「……やってみなくちゃ分からないわよ……殺さなくちゃいけななないいいののの……彼を……キキキキョンくんんんをを」 朝倉の言葉は、異常動作をしたCDのように、奇妙な繰り返しをする。 ぶるぶると朝倉の体が震えだし、朝倉の顔に張り付いた冷たい笑顔が、はっきり分かるぐらいに歪んだ。 朝倉涼子の表情が変わる。 その顔が――いまにも泣き出しそうな顔になった。 はっと俺は息をのんだ。 ――朝倉だ、SOS団団員の。間違いない! 「朝倉っ!!」 朝倉は、涙をぽろぽろこぼしながら、ぎこちなく俺の方に顔を向ける。 「かかか体が、勝手にににっ……あああたしは、キョンくんんんのことを殺したたくなんかないのににに……」 がくがくと震えて、朝倉は体をよじりながら、地面にひざをついた。 長門の方にやっとのことで顔を向けた朝倉は、苦しそうに涙をぼろぼろと零した。 「なな長門さん……たたたたたすすけて……こんなのこんなのののいいいややああああああ!!」 それっきり沈黙すると、一回大きく、ビクン、と体を震わせ、やがて朝倉涼子は体を起こした。 朝倉の体の震えは止まっている。 俺の方を見た、朝倉涼子の冷たい目。その顔には、凍りついたような笑みが浮かんでいる。 「さよなら、死んで!!」 一閃、ナイフと腰だめにして、朝倉涼子は、俺に向かって飛び掛ってきた。 ズンッ 白刃が、柔らかい肉体を突き通す音。 だが―― 俺が刺されたわけじゃない。朝倉のナイフは、俺から50センチほどのところで止まっていた。 「キョン……くん……」 長門の腕が輝く刃に変わって、朝倉の胸を突き通していた。 長門はひどく苦しそうな表情を浮かべている。涙が一筋、長門の頬をつたった。 ズブ、と長門は朝倉の体から白刃を引き抜く。胸から血を噴出させながら、朝倉涼子は地面に崩れ落ちた。 「朝倉ああっ!!」 俺は朝倉に駆け寄った。 朝倉涼子は、体をビクビクと痙攣させながら、微かに呟いた。 「かか改変ん……しししなくちゃ……今度こそそそそ……ふつうののの……おお女の子で……キョンくんと……一緒……に……」 長門が、朝倉の前に屈み込んで、朝倉の耳に囁く。 「……その必要はない」 長門を見つめる、朝倉の虚ろな目。 「あなたを情報統合思念体から再切断する……目覚めたとき、あなたは元の、普通の高校生に戻っている……」 朝倉が、かすかに微笑む。 「安心して」 そういった長門の目からは、涙が流れていた。 「あ……り……が……と……」 俺は、ようやく朝倉を抱きおこす。 朝倉涼子は、既に意識を失っていた。 さて、後日談。 朝倉は眠ったまま病院に運ばれた。そのまま三日間、眠り続けている。 もちろん、肉体的に傷がどうこうってわけじゃない。長門が、情報統合思念体からの干渉を防止する防壁プログラムを、じっくりと時間をかけて構築するために、構築のあいだ朝倉には眠ってもらっていた。 そして、今日の朝、長門が電話で、プログラムの構築が終わったと連絡してきた。情報統合思念体の干渉は、今後、まず起きないだろうと長門は言う。 そう信じたい。 椅子に腰掛けた俺は、病院のベッドで眠り続ける朝倉涼子の美しい顔を見た。 ……朝倉は、俺を殺すように、情報統合思念体の急進派によって、プログラムの干渉を受けた。 自分の意志に反して、俺を殺すために、俺の家に向かっているとき、朝倉はどんな気持ちだったのだろう。 そして、そのぎりぎりの瞬間、朝倉はハルヒの能力を利用して世界改変をした。 後のことは、俺が体験した通りだ。 朝倉が改変した世界では、朝倉涼子は俺の婚約者になっていた。 俺の弁当を作り、一緒にそれを食べ、ポニーテールを揺らして、幸福そうに笑っていた。 あのとき、Enterキーを押さなければ―― 果たして朝倉は幸せになれたのだろうか? 俺は首を振った。 断言する。 答えは――NOだ。 なぜって? 俺は立ち上がって、朝倉の眠るベッドの枕元に置かれた写真立てを取り上げた。俺のポケットに入ったままだった写真。 長門がもってきた写真立てに入れて、朝倉の枕元においてある。 SOS団の集合写真だ。ハルヒ、長門、古泉、朝比奈さん、妹に抱きつかれた俺、そして―― 困惑したように、微笑する朝倉。 朝倉が、改変をした世界で、唯一そのままにしたもの。 これが、お前の答えだと受け取っていいんだよな? SOS団のみんなと一緒に、この世界に留まることが。 俺は、朝倉の顔を覗きこんだ。――そろそろだろうと思う。そんな予感がする。 朝倉涼子が、目を覚ます。 やがて、ゆっくりと開いていくまぶた。その瞳が―― 俺を見る。 泣くんじゃないぜ、俺。ここは笑うべきところだ。朝倉にお前の笑顔を見せてやれよ。ほら、笑え。 俺は、こぼれてきた涙をぬぐうと、無理やりに笑顔を作った。 「おかえり、朝倉」 「……うん」 朝倉涼子が、微笑んだ。 おしまい 涼宮ハルヒのSS 厳選名作集 長編 ループ・タイム
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/1087.html
第六章 やろうと思えば、何でも出来るもんだ。 簡単に俺はシャミセンの体を乗っ取った。 どうでも良いが、動きづらい。 俺は、再び学校へ向かう。 今頃昼休みだろう。 途中、ある2人が目に入る。 制服を着た髪の長い女性とにやけ面のハンサムボーイ。 よく見えない。もっと近きへ行く。 「今回は、大変な仕事だったらしいね。古泉君。」 「えぇ、それは大変でしたよ。鶴屋さん。 準備から実行まで、かなりの金額と時間と労力を費やしました。 あなたの御父上には、大変なご迷惑をかけました。感謝しますよ。心の底から。」 「あたしに感謝を言われても困るよっ。見ての通り、あたしゃめがっさ怒ってるんだからね。」 何を怒ってるんだろうか。鶴屋さんは、怖いオーラを発していた。 絶対に近寄ってはならない。そんな雰囲気だった。 古泉は、顎に手をあて、顎を撫でるような格好をする。 口元は笑っているが、目は、じっと鶴屋さんを凝視している。 険悪なムードが漂う。 「こんなっ、こんなことっ許されると思ってるのかいッ!!!」 「申し訳御座いません。」 「あたしは干渉しない。いや、したくない。 でもッ!!! 行動しなきゃ、誰かを失うって初めて知ったよ。これだけは、言っておく。 誰が見ても、これは、倫理的な道程からは、外れてる。間違った行為さっ。」 「責任は取るつもりです。僕なりのね。」 「死んで詫びるなんて、言わないでよ。 それは、逃げるに他ならないんだからさっ。」 「分かりました。」 「………あたしは今から、学校に戻るよ。勉強しなきゃ。 次に誰かに手を出したら、あたしがキミを止めるからねっ。」 鶴屋さんは、走って帰って行ってしまった。 古泉は、しばらく呆けていた。 「そろそろ、僕も帰りますかね。」 「みゃー。」 待ちな、古泉。 「これはこれは、彼の家の猫。えっと、シャミセンでしたね。」 急に古泉は考えて、笑い出した。 「くっくっく、長門さんのおっしゃる通りですか。」 「みゃー。」 どういうことだ? 「申し訳ありませんが、あなたの言葉は私には、解りません。 放課後、部室へ来て下さい。全てお話しします。」 そう言うと、古泉は帰って行った。 どうやら長門は、猫である「俺」が来るのを予期していたらしい。話が早くて済む。 放課後 「みゃー。」 「来ましたね。」 校門で古泉と朝比奈さんが待っていた。 「ごごごごごごごめんなさいキョン君。何も言えなくて。」 朝比奈さんは、俺を抱きしめ、謝った。俺、一生猫のままで良いかも。 「行きましょう。長門さんが待っています。」 そのまま部室へ向かった。朝比奈さんの感触が気持ちいい。至福の時とは、まさにこのことだ。 部室へ入る。 「待っていた。」 「みゃー。」 話してもらおうか。 「分かってる。」 「長門さん。通訳をお願いします。」 「必要ない。」 長門は、俺の首に何かをかける。 「何だ?k……うぉ!?喋れる!!」 「猫用バイリンガル装置。」 「ふぇー、ドラ●もんみたいですね。」 「今回の事は、深く謝る。」 「反対勢力の暴走だろ?仕方ないさ。」 「違う。」 は? 「ユダはわたし達。全勢力があなたと涼宮ハルヒを抹殺する計画をした。」 おいおい、冗談は顔だけにしまじろう。 「な、どうして…?」 「わたしの場合は新たな情報爆発の期待。きっかけを作ったのは、わたし達情報統合思念体。 有機生命体の一般に「恋愛」と呼ばれる感情を利用し、新たな情報爆発を期待した。 しかし、失敗に終わった。彼女が情報爆発を行う機会は格段に増えたが、リスクもまた、高い。 彼女の力は落ち着いてはいるが、力自体は衰えてはいない。 むしろ、より強力な物へと変貌している。 一歩踏み違えば、地球だけではなく、宇宙空間まで被害が及ぶ。 情報統合思念体は失望し、『扉』である涼宮ハルヒ『鍵』であるあなたを抹消する方向で計画を続けた。」 「わたしの場合は未来の固定化です。今回の事件を邪魔する人の足止めをしたそうです。」 「機関の方では、最近無意識に発生する閉鎖空間の対処が不可能になりました。 神人の異常増加が原因です。進行の速さは緩やかなのですが、このままでは、いずれ世界は改変されます。 対抗策として、谷口君などを利用し、彼女の錯乱状態を抑えようとしましたが、逆に拍車を加えました。 閉鎖空間の拡大する速さが異常なまでに速く、神人の対処もままならぬ状況でした。 結果、涼宮さんを抹殺する事を上が決定しました。」 「…………」 言葉が出なかった。 俺とハルヒは、こいつらの謀略にはめられたのだ。 こんな事許せるもんか。絶対許さん。 「ごめんなさい。ごめんなさいキョン君。」 朝比奈さんは崩れ落ちるように、床に顔を伏せた。 「泣いたって無駄ですよ。後の祭です。話は終わったな。俺は逝くぜ。」 「待って。」 小さな手が俺の尻尾を掴む。 「何だ?」 「あなたは、わたし達に言うべき言葉があるはず。だからこそ、ここに来た。違う。」 確かにその通りだ。しかし、 「今更お前らに話して何になる。」 「話して。」 「ふざけるな。こんな所に居てたまるか。帰るぞ。」 「離さない。」 「なら、シャミセンから出ていけば良いだけだ。じゃあな。」 「不可能。」 長門の言葉通り、俺はシャミセンから出れなかった。 「あなたが猫に憑依した行為は、本来してはいけない。 それを解くことが出来るのは、この中でわたしだけ。」 つまり、俺がシャミセンから出れないで困ると想定済みという訳か。 「そう。」 やれやれ、長門さんには、かないませんよ。 「今から、あなたを解き放つ。じっとして。」 「最後に良いか?」 「何?」 「おばけの俺は、お前には、見えないのか?」 「否、見える。」 俺が死んだ後、お前が来た時、近くにいたが、 まさか、気づかなかったなんて長門らしくないな。 「気付いてた。しかし、涼宮ハルヒもいた。 この場合、無理に言葉を交わさないのが妥当であると判断。」 なるほど。もう一つ。 俺をハルヒの夢に招待した理由が解らん。 わざわざ喜緑さんと古泉を用意してまで、朝倉を倒す芝居をする必要は無いだろう。 何故、一気に俺とハルヒを殺らなかった? 「何の事?」 長門の手が止まる。 「僕も知りません。」 おいおい、冗談キツいぞ。 「本当。した記憶は無い。」 何だこの違和感。どこかで感じた記憶がある。 「詳しく話して頂けますか?」 俺は、ありのまま話した。 ハルヒの夢に送られた事。 朝倉が出現した事。 朝倉の言葉「真実」「終わらせない」 勿論、俺がハルヒに不覚にも「愛おしい」と言った事は内緒である。 「あなたの言葉が本当なら、この世界は偽りの世界。」 つまり、改変された世界だと? 「多分そう。あなたの話からすれば、改変したのは朝倉涼子。」 穏やかに、しかし力強く長門は言った。 「あなたを元の世界に帰還させる事も可能。」 「これは興味深い話ですね。僕も協力しますよ。」 「わ、わたしもキョン君と涼宮さんのために、働きます。」 「すまん、助かるよ。古泉、朝比奈さん。だが、良いのか?」 「罪滅ぼしですよ。もっとも、これで償えるとは、思っていません。」 「それでも、有り難いよ。」 「但し100%戻るとは、限らない。」 「構うもんか。やってみるさ。」 「あなたが元の世界に戻ったとしても、あなた達が幸せになるとは、限らない。 他の勢力に狙われているのは当然。今回同様わたし達が敵に回る事もある。 あなたは一人でも、彼女を護れる?」 「…………。」 単純に考えれば答えはNOだ。 桁違いの頭脳と力を持った勢力とただの凡人一人が戦っても勝てるはずがない。 簡単に言うと、戦闘力5の地球人とフリーザ一味である。 「考える時間はまだある。ゆっくり考えて欲しい。それと一応、あなたが帰る準備をしておく。」 「分かったよ。気長に考えるさ。まだ、時間は残ってる。」 「次に来る時は、涼宮ハルヒと一緒に来て欲しい。」 「ハルヒ?」 「どうしても必要。」 「分かった。それとよ、何故俺の記憶だけ残っている?」 「解らない。だが誰かがあなたを守った可能性が高い。」 「そうか。まあいいや。」 「では、離す。」 スッとする気分と共に、目の前が真っ白になった。 目の前には朝比奈さん、長門、古泉がいた。 「じゃあな。」 長門にしか聞こえない言葉を吐き捨て、俺は部室を後にした。 家に着くとハルヒがいた。何しに来やがった。 「暇だから、来てやったわ。」 「俺は忙しかったがなぁ。」 「忙しい?あんたが?どこ行ってたの?白状しなさいよ。」 まずい。口が滑った。長門達に会いに行ったなんて言えないぞ。 「し、親戚の家にも行って来たのさ。」 「本当?それにしては、帰りが早くない?怪しいものね。」 「本当だとも。顔見てすぐ帰って来た。」 「まあいいわ。今更、どうこう言える立場じゃないし。 それよりキョン!!あたし暇なの。どっか行きましょうよ。」 「思い出巡りでもしょうか。」 「過去を振り替えるのは嫌。前をだけを見て行動したいの。」 俺達に未来は無いようなものなのだがな。 ハルヒには、思い出したくもない過去があるのだろう。 わざわざ俺がハルヒの傷をいじる必要はない。 「おし、映画でも見るか。」 「映画ならいいかな。」「じゃあ、行くか。」 「競争よ。キョン。」 ハルヒはふわっと浮かび上がり、繁華街の方へと飛んで行った。 「待てよ。」 俺も必死になって追いかける。 楽しい。今、俺は人生(死んでるけど)で一番幸せなのかも知れない。 誰にも邪魔をされず、平和で、近くには俺を導くハルヒがいる。 ここは、天国のような世界なのか。 気付いたら映画館だった。 「どれ見るか?」 「そうねえ。あれがいい。」 ハルヒが選んだのはSF映画だった。 ハルヒが好みそうな、いかにも宇宙人や超能力者が出てきますよ的な映画だった。 「入るか。」 「待って!!」 ハルヒは、俺の腕を引き寄せ、俺の腕と絡ませた。 「少しは、あたしの夫らしくしなさいよ。」 夫!? 「もう、婚約したのと一緒よ。夫婦なの。」 ふふふと笑いながら、ほんのり顔を赤らめるハルヒ。 俺は、かなり恥ずかしい。多分、顔が真っ赤だね。 周りに霊感の強い人が見ていたらどうしようかと思う。 どうしようも無いが……… 「タダで入るなんていい気分ね。VIP客みたい。」 俺は、罪悪感でいっぱいだった。小銭を探したが無い。 あっても払う気はないし、払えるわけもない。 映画はあまり面白い代物ではなかった。 ハルヒなんて、途中から眠っている。 なんか俺も頭がぼーっとしてきた。 俺は元の世界に戻りたい。 あいつが起こす問題。 それを試行錯誤し、解決する俺達。 ハルヒが消失した日。 あの時はそう思い、エンターキーを押したはずだったよな。 だけど………… だけど…… だけど!! もう疲れた。 横には、ハルヒの寝顔。性格とヘンテコな能力さえ除けば、ただの可愛い少女だ。 「あなたは一人でも、彼女を護れる?」 頭に響く言葉。 「否、俺はハルヒを助ける力なければ、気力も無い。」 虚しく呟く。 映画はいつの間にか、エンディングに入る。 綺麗な曲が流れ出した。 俺は、何故此処にいる。 朝倉は俺に何を望む。 己の無力さを教える為か? 俺はともかく、ハルヒまで殺す利点は何だ? 解らない。 俺は何をすれば良い? 「あれ、終わったの?映画。」 「ああ、起きたか。」 「帰ろっか。」 「そうだな。」 「おんぶ。」 「は?」 「何度も言わせるな!!おんぶよ。おんぶ。」 「はいはい。」 「今日は一緒にいよっか。」 「ダメ。家に帰りなさい。」 「だって暇なんだもん。どうせ幽霊だから、誰とも話せないし。」 俺にはシャミセンがいるけど。 そういえば、シャミセン連れて帰るの忘れた。 今頃どうしているだろうか。 「ね。いいでしょ?」 「わかった。わかった。」 家に帰って驚いた。 「お帰りなさい。」 「「え゛!?」」 シャミセンと長門がいたのだ。 長門は俺達が見えてるんだよな。 「ちょ……ハルヒがいるんだぞ。」 「好都合。」 「ちょっとキョン。これは何!?不倫?不倫なのね!?」 「MAMAMA待てハルヒ!!誤解だ。ご懐妊だ。」 時既に遅し。くだらない駄洒落を言うや否や、ハルヒの連続グーパンチが飛んでくる。 「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ。」 「痛い、痛い!!長門!!何とか言ってやれ。」 「………自業自得。」 どう見ても長門です。本当に有難う御座いました。 「あれ?何で有希としゃべってるの?」 今頃気付くな。 「わしもおるぞ。」 「ひっ!!猫がしゃべった?」 シャミセン。お前もか。 第七章へ
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2507.html
涼宮ハルヒのデリート 誤解なんてちょっとした出来事である。 まさかそんなことで自分が消えるなんて夢にも思わなかっただろう。 キョン「あと三日か・・・。」 キョンつまり俺は今、ベッドの上で身を伏せながらつぶやいた。今を生きることで精一杯である。 なぜ今俺がこんなことをしているのかというと、四日前に遡ることになる。 ハルヒ「キョンのやつ何時まで、団長様を待たせる気なのかしら?」 いつもの集合場所にいつもと変わらない様子で待っているメンバーたち。 団長の話を聞いた古泉が携帯のサブディスプレイをみる。 古泉「まだ時間まで五分あります。」 と、団長に伝える。 ハルヒ「おごりの別に、罰でも考えておこうかしら。」 っと言ってSOS団のメンバーは黙り込んだ。誰一人として口を開こうとしない。その沈黙を破ったのは、ベタな携帯の着信音だった。 ハルヒ「あとどれぐらいで着くの?団長を待たせたんだから・・・」 っと言われ「一方的に電話をきった。ベタな展開だったら俺が切るのだが、なにしろ相手があのハルヒだから仕方がない。 かわりに古泉に電話をかけた。 古泉「僕に電話とは、あなたも罪な人ですね。涼宮さんが嫉妬しますよ。」 ウザイ、何勘違いしてんだこのホモ男。 古泉「冗談です。僕に電話をかけたぐらいですから、何か理由があるのでしょう?」 やっぱりコイツと話すのは少し気が引けるな。 キョン「今日は、急用があるから探索にはいけないとハルヒに伝えてくれ。」 古泉「その用とは?何の事ですか?」 キョン「どうしても言わなくてはいけないのか?」 古泉「・・・。まあ別にいいでしょう。あなたの休日まで追及はしません。」 キョン「じゃ、頼むぜ。」 電話のやり取りを終えた古泉はハルヒに用を伝えた。 ハルヒ「仕方がないわね。じゃあ、今日は二人のペアで北と、南に分かれて不思議を探しましょう。」 ~ハルヒ視点~ ハルヒとペアになった、いやなってしまった朝比奈さんは午前中ずっとハルヒの不機嫌オーラを感じ、おびえながらハルヒの後についていったそうだ。 午前中の散策が終わりいつもの場所へ向かう途中朝比奈さんがあるものを発見してしまった。 みくる「あれって、キョンくんじゃないですか~~?」 ハルヒは朝比奈さんの指す方向に素早く振り向いた。 ハルヒ「散策をサボっておいて、何をやってんのかしら?」 しばらくハルヒが何かを考えていると思うと、頭の上の電球が光った。 ハルヒ「キョンを尾行するわよ、みくるちゃん。キョンの休んだ理由がわかるし、不思議なところへいけるかも知れないし。」 みくる「で、でも~~、長門さんと、古泉くんのことはどうするんですか~~?」 ハルヒ「そんなの後で電話しておけばいいじゃない。」 っと言って、彼の尾行を始めた。何度かみくるちゃんから「やめましょうよ~~。」っと言われたがすべて無視した。 彼の行き先はいつもの駅から一駅離れたところだった。 ハルヒ「なんでわざわざこんなところにくるのかしら・・・。」 みくる「やっぱり、やめませんか~?キョンくんには彼なりの事情があると・・・。」 言いかけていた彼女の口をふさいだのは、ハルヒの手だった。 みくる「何するんですか~?」 ハルヒ「誰かに手を振っているわ。ここからじゃよく見えないから別の場所へ移動しましょう。」 っといってハルヒは朝比奈みくるの手をとり移動した。 みくる「あれって、女の人じゃないですか~?」 ハルヒの目に移ったのは、キョンが親しげにその女性と話しているところだった。 そして、気づいたらそこから走って逃げ出しているところだった。 走るのをやめて歩いていると、後からみくるちゃんが追いついてきた。 みくる「きっと彼女じゃないと、思いますよ・・・。」 ハルヒ「あったりまえじゃない、あのキョンに彼女ができるわけないじゃない。ただ少し暗くなってきたから早く帰りたいなと思って・・・。」 わかりやすい嘘をついてしまったと思い、すこし悔しがった。駅あたりで二人が別れた。 ハルヒの後姿はどこか悲しげな表情にみえたそうだ。 ~キョン視点~ 妹のダイブによって起こされた俺は、いつもの強制ハイキングコースを心行くまで楽しんでいた。 学校にいく間、谷口のナンパ話を聞かされた。まったく飽きないやつだ。 谷口「でだな、やっぱりゲーセンのやつらを狙うのはよくなくてでなあ・・・。」 キョン「お前のそのナンパ話はこうで96回目だ。」 っと口を挟む。まったく朝から暑苦しいやつだ。熱心に語ってきやがる。 谷口「そういや、お前なんで土曜日の探索に行かなかったんだ?」 キョン「・・・。なんで、お前が知ってる?」 谷口「ギクッ!!!忘れてくれ・・・。」 そんな話をしているとすぐに学校に着いた。靴を履き替え教室に向かうと、何から話そうか考えた。誰にって、そりゃハルヒにきまってんだろ? 絶対追求してくるに違いない。 しかし、予想に反してハルヒは何を言ってこなかった。それどころか、教室に入ってきた俺をまるで何もいないかのような反応を見せた。 キョン「ど、土曜はすまなかったな。急に休んだりなんかして・・・。」 しかし、ハルヒは何の反応もしない。気まずい、ククラス全体が注目してる。 キョン「休んだ事を怒ってんのか?」 ハルヒ「・・・・・・。」 無反応のハルヒに気まずさを感じていたら、チャイムがなりホームルームが始まった。 まったく、休んだぐらいでそんなに怒るかよ・・・。 結局午前中はハルヒと何も話さず、不機嫌オーラを受け続けていた。 昼休みは教室を抜け出しどこかへいってしまった。 谷口「お前、涼宮になんかしたか?」 キョン「いや、何もしていない。何で怒っているか知りたいぐらいだ。」 本当に何を怒っているんだろうな、ハルヒのやつ。 そして授業の終わりに二人のムードに耐え切れなくなった谷口が、あろうことかハルヒに話しかけてしまった。 ハルヒ「何よ谷口。あんた宇宙人でも見たの?」 じとっとした目で、谷口を睨む。 谷口「キョンと喧嘩するのはいいが、クラスのムードまで暗くするな!」 っと強気で言った。ああ、谷口、お前死んだな。相手を考えろ、相手を。 しかし返ってきた返答は、最悪なものだった。 ハルヒ「キョンって、誰?」 教室が完全に凍りついた。その中を凍らせた原因のハルヒが通りすぎていった。 マジかよ? なにかあったかも知れんと思い、逸早く部室へ向かった。 キョン「長門!これは一体どういうことなんだ?」 俺は部室の隅で静かに本を読むインターフェイスに問いだした。しかしまた返って来た返答は最悪だった。 長門「あなたが悪い。」 ・・・・。俺は言葉を失った。一体何をしたんだというのか。あの長門からこの言葉を言われると正直つらい。 すると後ろから古泉が入ってきた。 キョン「お前ならわかるか?俺がハルヒから無視されている理由。」 よく考えてみれば、長門がああ言っているのだから古泉に聞いても仕方がなかった。 ふわりと自分の体が倒れるのを感じ、殴られたとわかった。我ながら格好悪い。 古泉「あなたがそんな人だったとは、失望しました。涼宮さんが無視するのもよくわかります。」 一体どういうことだ。何が起こっている?これもまた異世界なのか? とりあえずこの日は家に帰った。あんなことを言われてあの場にいれるほど、俺も狂っちゃいない。 一体何が悪いのか考えているうちに眠りに入った。 朝だ・・・。妹のプレスを食らう前に起きた。とりあえず再びハルヒに誤っておこうと思い学校へ向かった。 向かう途中ずっと考えていた。そもそも俺をいないものだと言うほど嫌っているのに、どうやって誤ればいいのか。 それに理由もわかっていない。・・・そうだ、朝比奈さんに聞こう。 昼放課に朝比奈さんを呼び出した。 キョン「あの、俺って何かハルヒに悪い事いしましたか?」 真剣な口調で話す。彼女なら何か知っているのだろうか? その言葉に驚いたような様子をみせ、真剣な顔つきで話始めた。 みくる「あの、始めに言っておきます・・・。」 キョン「はい?」 みくる「ごめんなさい。」 パ~ンという音が響いた。そう、ビンタされた。そして朝比奈さんはどこかへいってしまった。 あの、朝比奈さんに殴られたのは相当ショックだった。 結局午後の授業にはでずに欠席した。この日は何もかもにやる気がでず。ベットで眠ることにした。 朝、自分の体の異変に気づいた。 -あと3日で自分は消える 何でわかるかって?分かってしまうからしょうがない。これしかないな。 今の状況に絶望した自分は学校を休んだ。だってあと三日で死ぬとわかっていて何をすればいいかなんかわからん。 夕方、古泉が家を訪ねてきた。しぶしぶ話を聞くことにする。 古泉「いい加減にしてください。とにかく明日、涼宮さんに謝る事です。何度閉鎖空間を潰したことか・・・」 キョン「・・・。俺が何をしたっていうんだ?」 古泉「とぼける気ですね。まあ、いいでしょう、言ってさしあげますよ。先週の散策あなたは休んだ。そしてわざわざ僕たちから離れるようにして彼女に会った。それに対して涼宮さんは失望しているのですよ。」 キョン「待て!それは・・・。」 古泉「ともかく、明日は学校に来て謝ってください。それで済むことですから。」 俺は終始まともな話ができず、家に戻った。 「あと三日か。なんとしてでも・・・」 彼女に会っただと。とんだ誤解だ! 次の日は一日中ハルヒにかけた。全て無視されて、だんだん自分が消えていくのを感じ、孤独感に襲われた。 手紙をつかってみたりもしたが、やはり無視された。 ・・・。一体全体どうなっているんだ? 帰り際、しかたなく古泉と少し話をすることにした。 キョン「全て無視されている。もう俺が消えたみたいに。」 古泉「どういうことです?もう、とは?」 キョン「古泉、俺はあと二日、いや明日いっぱいまでしか生きられない。」 古泉「・・・。なんで分かるのですか?」 キョン「分かってしまうのだからしょうがない。っということだ。」 古泉「・・・なるほど、どうですか。僕の憶測ですが・・・、土曜にあなたが彼女にあったことが原因でしょう。」 キョン「そのことなんだがな・・。実はそれお袋なんだ。俺の。」 古泉「!?・・・それが本当ならものすごい間違いですね・・。」 キョン「まあ、俺の親は若いときに俺を生んだからな。」 古泉「で、その誤解により、あなたに失望し悲しんだ。あなたがいなければ悲しまなかったのに、とでも考えたのでしょう。」 キョン「だったら、すでに消えているべきじゃないのか?」 古泉「そうですね、あなたに謝ってほしかったのではないんですか?」 キョン「・・・(違うだろ)。まあそんなことよりこれからどうするかだな。」 古泉「そうですね。今のままでは、この世界にも失望して改変されかねませんからね。」 キョン「しかし、俺の書いたものまで目にはいらないとなると、どうすればいいんだ?」 古泉「分かりません。でも、あなたのやる事を信じたいと思います。」 いつまでも本当にクサいやつだな。しかも顔が近い、キモイ。どけろ 古泉「僕にできることがあれば、何でも協力しますよ、親友として。」 キョン「わかった。」 っといって別れたのはいいがさっぱりどうしたらいいのかわからん。 このままでは、本当に消えてしまう。何かいい方法はないのか? 長門に頼るか?いや、今回は自分で考えるべきか? 人間はこういう大事な日に限ってすぐに寝てしまうものだ。 次の日結局何も浮かばず、半日をすごしてしまう。 今いるのは部室だ。ここでなんとかしなければ、消えてしまう。 ふいに長門が何か語ってきた。 長門「あなたはもう答えを知っているはず。答えは過去にあり、現在に関係する。」 そのことを信じていいんだな、長門。・・・。 最後になるかもしれない部活は、ハルヒに俺が認識されないまま終わった。 帰り際、あるひとつの答えにいきついた。唯一の接触できるチャンス、そして最後の切り札。 キョン「古泉、親友としてのお前にひとつ頼みがある。」 古泉「なんでしょう?できる限りのことをいたしますよ。」 キョン「それはだなぁ、夜に東中にきてくれと手紙にかき、渡しといてくれ。」 古泉「なんのことだか、分かりませんが、それが望みならやっときます。」 そう答えは今日という日つまり七夕。答えは三年前。 東中に着くとハルヒをベンチで待つ。懐かしいな、この場所。丁度暗く顔をしっかりと見えない。 しばらくするとフェンスを乗り越え、ハルヒがやってきた。 ハルヒ「やっぱり、ジョン・スミスだったのね。」 そう、最後の切り札はこれだ。そして予想どうり接触することができた。 ジョン「どうだ、高校は?」 するとハルヒ今までの活動を話始めた。 ハルヒ「やっぱり、宇宙人はみあたらないわね。でも、SOS団っていうね・・・。」 俺も、(俺は話から消えていたが)今までの活動を思い出していた。 ハルヒ「ジョン泣いているの?」 俺の顔には涙が流れていたらしい。あと十五分の命だ。 ハルヒ「私何か大事なことを忘れている気がする。」 ふいにハルヒが言ってきた。思い出してもらうチャンスかもしれない。 ジョン「今からいうことを真剣に聞いてくれ。」 ハルヒはキョトンとした顔だったが、気にせず話をつづける。 キョン「昔、キョンと呼ばれていた男がいた。彼は普通の人生に飽きていた。そこに自分と同じ考えの女の子が現れた。 彼女は不思議を追い求めて彼を振り回した。しかし彼はそれを迷惑と思わず、むしろ自分の人生が楽しくなるのを感じた。・・・」 もう涙が止まることはない。 ジョン「しかし、ちょっとした誤解で二人はもう二度と会わなくなってしまった。」 ハルヒ「それがジョンあなたなの?」 ジョン「ああ、SOS団か・・・楽しかったな。」 嘘と真実がまざりメチャクチャになってきた。 ハルヒ「わたしが忘れていることって、まさか?」 ばらばらだったピースが合わさった。しかしもう時間がない。 ハルヒ「女の子はわたしなのね。」 キョン「ああ、誤解が解けないのが残念だったな。」 ハルヒ「・・・。」 キョン「ハルヒ、約束してくれ。俺がいなくてもこの世界に失望しないことを。」 ハルヒ「・・・、わかった。って、何その死ぬ前みたいな言葉。それに体が・・・」 体が消えてきた。くそ!時間がない。 キョン「じゃあな、ハルヒ。消える前にお前のポニーテールが見たかった・・・。」 こうして俺、キョンはこの世界から消えていった。 思えば、普通の高校生として生きていくよりはよかったんじゃないのかと、思えた。 その後ハルヒは古泉から誤解について説明された。 俺が消えた世界では、俺の体は残っていないので失踪っということになっている。 妹よ、兄が消えた事に悲しんでいるか? 世界が改変されることが起こらず、いやそれどころか閉鎖空間すら発生しなかったそうだ。 SOS団は今も健在しており、ポニーテールの団長様はなんとかやっているようだ。 ハルヒ「・・・。あれから一ヶ月ね。本当にどこへいったのかしら・・・。」 ハルヒが俺の席をみてつぶやく。 みくる「・・・・。きっと帰ってきますよ。」 ハルヒ「でも、目の前で消えていくのを見たのよ!わたしだって信じたい、帰ってくると。」 古泉「いい加減にしてください!] 急に叫んだ古泉に、二人は意表をつかれた。 古泉「そんなこといっていたら、彼が帰りづらいじゃないですか。」 部室が静まりかえった。・・・・。どういうことだ? 古泉「実はですね。先日警察に身柄を確保されましてね・・・。」 っといって、ハルヒに新聞を渡す。確かに新聞には俺の写真がうつっている。 古泉「いると信じなくては、いるものもいあくなってしまいますよ。」 するとハルヒの顔にいつもの120ワットの笑顔が戻った。 次の日、俺はベットの上で横になっていた。 なぜ俺がこの世界に戻ったのかというと簡単なハルヒの思い込みだ。 まったく便利な能力だな。まあそれのせいで、消えていたわけだが・・・。 さてまずは最初に一ヶ月の幽霊生活。これでもハルヒ話してやろうかな。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3166.html
俺はいつぞやのごとく、再びノートパソコンの前で無駄な電力と労力を消費していた。 その理由は、文芸部存続の為、恒例となった会誌のおかげである。 ことの発端である生徒会長が「部活動なのだから定期的に活動しなければ意味がない。定期的に発行して、文芸部としての活動をすること。」 との伝令があった。 しかし以外にもハルヒは今回、あんなに毛嫌いしていた生徒会長の言葉を素直に受け入れたのだ。俺の言葉なんざまったく聞いちゃくれないのに・・・。 「別にいいじゃないの。前回あれだけの人気があったんだから、次回作を期待している読者だっているわ。」 と、我団長は話した。 「わかってるわね、キョン!! 私たちの作るものは常に前回を上回るものでなきゃダメなの。どこかのアメリカ映画みたいなくだらないの続編ものはゆるされないんだからね!!」 いつにもましてハイテンションだな。 って、さらにクオリティの高いものを作れないとダメなのか!? 「もっちろん!! それに今回は私もなにか小説を書こうと思うの。 ジャンルは・・・そうねぇ、前回なかったSFにしようかしら。」 ・・・とかなんとか騒いでいる内にSOS団はあれよこれよという間に会誌vol.2をつくる羽目になった。 各自のジャンルは前回同様と同じものになった。その理由は「その方が慣れてるでしょ?」という団長の一言で決まってしまった。 「期限は一週間! ダラダラと長い時間をとるのは意味ないし、SOS団は他にもやらなくてはならないことは山程あるの! 一週間で仕上げちゃいなさい! 遅れたら罰金なんだからね!」 とまぁかくしてSOS団は再び会誌を作ることになったのだが・・・。 俺はまたしても恋愛小説を書かなくてはならなくなった。ああ、あの忌まわしき過去が、鮭の母川回帰本能ごとく俺のもとに舞い戻ってきやがった。 しかし、かくいう俺も少しうれしいことがあった。 それは鶴屋さんの冒険小説の続編が拝めるからだ。 前にも言ったが彼女の小説は、万人に笑いを与えられる秀作で、とても一般人が書いたとは思えない代物だった。 著者である鶴屋さんも「続編だね!? まっかせといてよ! キョン君の期待に応えるためにもめがっさはりきっちゃわなきゃね!」 といつもの明るい笑顔でオファーしてくださった。 製作開始から3日が経過した。 それぞれ前作同様、同じ手法で製作に取り組んでいるのだが、以外にも前回と比べると団員全員・・・訂正、1団員を除く全員の顔には余裕の表情が伺えた。 ハルヒの言うように、要領を掴んでいるせいか楽しんで製作していた。 ちなみに言うまでもないが1団員とは俺のことだ。 「どうです? 作業は捗っていますか?」 いつものように古泉が寄り添ってきやがった。 「しかし、涼宮さんは前回の貴方の作品では十分な満足は得られなかったようですね。 実を言うと私も、また貴方の作品を読んで見たいと思っていました。」 ・・・こいつは本当になにを考えているんだ? 「普通の高校生と同じようなことを考えていますよ。 超能力以外、普通の高校生とまったく一緒なのですから。」 そんなことは前から何回も聞かされている。 俺は超能力者・古泉の思考ではなく、高校生・古泉の思考について疑問を抱いているんだ。 「キョン君は、今回はどんな恋愛小説を書くんですかぁ?」 と、SOS団のエンジェルこと朝比奈さんが質問を投げかけてきた。 「それがさっぱり・・・。前回のやつだって苦し紛れのもんでしたし・・・。 朝比奈さんはもうネタとかできているんですか?」 「私は、今回眠れる森の美女をイメージにした童話を書くつもりですぅ。」 また誰か寝ているんですね・・・。というか今回ハルヒはどのポジションにつくんだろう? 長門はというと、ただ黙々とノートパソコンの前でカチャカチャカチャと止まることのない音楽を奏でていた。 「なぁ、長門。前回の名前をつけるところの下り、もしかしてあれ、お前自身のことか?」 「・・・。」 「あの、発表会ってなんなんだ?」 「・・・。」 「歌っている男、って誰なんだ?」 「・・・。」 長門には前回の小説のことを幾度か質問してはいるのだが、返答はいつもない。 しかし次回作ではその謎が少なからず解かれるのであることをウイスキーボンボンの中身ぐらいの期待を持つことにしよう。 と考えていると、いきなり「できたぁ!」と叫ぶ声とともにハルヒが部室に入ってきた。 「ねぇねぇキョン!? 見てみて! 今回SFを書いてみたんだけどすんごい名作よ! 読んでみなさい!」 と、数枚の印刷されたてで、まだ暖かさが残る原稿用紙を手渡された。 俺は一応というか、こいつの作るものにはそれなりの評価はしているのでそれなりの期待をもちながら読み始めたのだが・・・。 ハルヒの作ったSFは期待通り、かなり濃密で斬新な作品であった。しっかりとした構成と話でできていて、とても3日で製作したとは思えない、鮮麗としたものだった。 「どう!?」 と、自信満々のハルヒだったが、 「それよりキョン、あんたできたの!?」と鬼編集長が迫ってきた。 「前回もそうだったけど、あんたは問題児なんだからね! これから私がしっかり編集長としてあんたをしごいてあげるわ!」 正直俺はまいっていた。なにを書くにもそんな経験や知識は皆無でとどめにもてたこともない。付け加えるとやる気もない。 そんな俺にハルヒは学校にいる間は愚か、家に帰ってもメールや電話で進捗度合いを俺に尋ねてきやがる。 一歩間違えればストーカーだ。 製作開始5日目、ネタに困った俺は放課後、谷口と国木田に相談した。 「ネタぁ? お前また恋愛小説書くのか? しかし前回のはひどかったな!」 うるさい。お前に言われたくはない。 ちなみに、こいつらは今回会誌には参加していない。ハルヒ編集長曰く、 「あんな作品はページの無駄よ無駄。無駄なことはあたしは好まないの。」 とここでも鬼編集長ぶりを発揮していた。お前が強引に書かせたくせに。 しかしそれをいうなら俺のもだって相当なもんだぜ?この際だから俺も打ち切りにしてくれないか?とたずねると 「あんたはSOS団員なのよ? 団員は必ず参加しないといけないの! そんなこともわからないの?」と怒られてしまった。 そんなことを俺は脳裏で回想していると、国木田が発言した。 「そうだねぇ。なにも出てこないならSOS団の人達を題材にしちゃえば?」 ・・・! 「そりゃおもしれぇ! 涼宮の団は男女いい具合にいるからよ、昼ドラみたいのかいてみろよ!」 ドロドロ恋愛か・・・。いやそれは俺の力量ではかけないな。 「ドロドロは無理だがいい案を思いついた! サンキュー国木田!」 「どういたしまして。あ、SOS団のみんなによろしくね。」 そうして俺は、部室に向かった。 「って俺には礼なしかよ!」 と谷口が叫んでいたがそんなことは気にもとめなかった。 俺は部室に行くと、そこには長門がいつものように本を読みながら座っていた。 朝比奈さんもいつものようにメイド服に着替えていて「あ、キョン君」と優しい笑顔で挨拶してくれた。 そして古泉がいつものようにこちらを見て微笑んだ。こいつの微笑みは朝比奈さんの笑顔で明るくなった俺の心を台無しにしやがる。 しかし、ハルヒはそこにはいなかった。 まぁこれもよくあることだ。 俺は早速ハルヒがコンピ研から巻き上げたノートパソコンを起動して、テキストエディタに文章を叩き込んでいった。 しかし、一日で終わるわけもなく俺はこの作業を土日もすることになった。 ハルヒのストーカー行為にめげることなく、俺は土曜の夜に恋愛小説を完成することができた。 しかし日曜までかかると思っていたのだが・・・俺も知らないうちに書き慣れちまったんだな、恋愛小説。 その報告を編集長に連絡すると、 「そう、じゃあ今からチェックしてあげるからあたしんちまでもってきて。」 という返事が返ってきた。 「ちょっとまて。今からお前の家って・・・。」 「安心して。ママ達は土日は仕事でいつも家にいないの。だから気にすることはないわ。」 ってその方が余計に気にするわ! 「つべこべ言わずにさっさと来なさい! 10分以内で来るように! 遅刻したらジュース奢りだからね!」 と言い残し電話を切られた。 俺は仕方なくノートパソコンを鞄に詰め込み、ハルヒの自宅へと向かった。道中、果汁100%のジュースとコーヒーも買って行った。 ハルヒの自宅に到着した俺は大魔神のごときハルヒの怒りを静める為、ジュースを渡しなんとか機嫌をなだめた。 実際のところ、10分では到底たどり着くことのできない距離にハルヒ宅があるわけで、俺はどうあがいてもジュースを奢らされる運命にあったわけである。 ハルヒはただジュースが飲みたくて俺にあんなことを言ったのだ。 その証拠にこの後ハルヒは「まぁ買ってきたことに免じて私のジュース代は返してあげる。」といって部屋に案内されながら100円返してくれた。そういうならもう20円返せ。 「それより早くあんたの小説読ませなさい。おもしろくなかったらまた作り直さなきゃいけないんだから。」 とハルヒにせがまれたので俺は息つく間もなく、ノートパソコンの電源を入れた。 立ち上がるまでの間、俺はハルヒの部屋をきょろきょろ見渡していると 「こら、エロキョン! そんなにジロジロ見渡さないの!」と怒られてしまった。 そんなことをしているうちにノートパソコンは立ち上がり用意ができた。 「ほらよ。」 そう俺は言ってハルヒに俺の恋愛小説第2弾をご披露した。 俺はどこにでもいる高校生だ。そんな俺の夢描く高校生活とは、まったりと、しみじみとした普通の高校生活であった。 しかしこんな俺の淡い夢も入学式から数日後、儚くも崩れ落ちていった。 その原因は同じクラスでありながら、俺ら普通の高校生とはまったく違うエンジンを搭載した 一人の女子であった。 クラスメイトがそれぞれ自己紹介するときから、いきなりその排気量の違いを見せつけられ、気づいた時には俺はその女子が立ち上げた部活動に入部させられていた。 その犠牲者は他にも3名いたがなんとその3名もそれぞれ未来人、宇宙人、超能力者と奇怪な能力の持ち主で俺は三者三様、エキセントリックな経験をするハメになった。 そんなわけで俺は毎日飽きることなく、常に刺激溢れる毎日を送ることとなった。 初めの頃は迷惑極まりない、明日が恐ろしい日々だったが、人間というものは素晴らしい機能を持った生き物であり、半年も過ぎるとそれらの刺激が楽しいとさえ思えるようになっていた。 そんな毎日を送っていた俺は精神的にも疲れていたせいか、ある変な夢を見てしまった。 その夢とは、あの女子と俺だけしかいないもうひとつ世界、いわゆるパラレルワールドに迷い込んでしまうというものだった。 このもうひとつ世界とは、女子が作り出した世界だった。 現実に楽しみを失い、新しい世界を望む、女子の願いでできた世界であった。 そんな世界に俺はただ一人歓迎されたのだった。 その世界は灰色で、冷たくて、しかも舞台が俺のその女子が通っている学校だった。 そしてその世界には巨大で、建物を破壊する青くて透明な生き物が存在した。 なにもかもが違う世界に女子は感動していた。 しかし俺は、この世界を否定した。 女子はその意見にこう質問した。 「あんたもつまらない毎日にうんざりしてたんじゃないの?」 俺はこう言い返した。 「俺はみんなのいる世界で、みんなと一緒に居たいんだ。」 その言葉を口にした瞬間、俺は気づいてしまった。 俺の生活の中心にいたあの女子もいつの間にか俺の『心』の中心にいることを・・・。 たしかにお前といれることはうれしい。 しかし俺にとってあの生活の中心にいるお前が一番好きであるなんだ。 この気持ちをどうしたらお前に伝えられる? どうしたら・・・。 俺は女子の両肩に手を置き、向かいながらこう切り出した。 「俺、実はポニーテール萌えなんだ。」 「いつぞやのお前のポニーテールは反則的なまでに似合っていたぞ。」 「はぁ、・・・なにいってんの?」 と、女子は戸惑った顔をしながら俺に大きな瞳を見せた。 そして俺は次の習慣、女子に口付けをした。 「・・・え?」っと驚いた声を出した女子だが、俺のキスに嫌がることなく、受け入れてくれた。 俺の気持ちが届くいたのなら、もう一度元の世界で共に生きよう。 できることなら・・・ずっと・・・。 俺はそう祈りつつ、彼女にキスをした。 そして次の瞬間、このパラレルワールドは崩壊し、二人は元の世界に、元の生活にもどるのだった。 ただひとつ、違うことがあった。 次の日、彼女はポニーテールだった。 俺は少し嬉しくなったのでこういった。 「似合ってるぞ。」 終 読んでもらえばわかるであろう。俺は恋愛小説を書き慣れたわけではない。ただ前にあった事象を文字で表現しただけだ。 しかし。俺は前からどうしても知りたいことがあった。 ズバリ、涼宮ハルヒは俺をどう見ているのか。 古泉や長門、朝比奈さんはハルヒは俺のことを特別視しているというが、実際俺はハルヒ本人からそんな類の話は聞いたことが無い。 俺とハルヒが一番近づいた日の出来事。しかもこれは俺とハルヒしか知らない夢の話。(本当は現実の話だが、ハルヒは夢だと思っているからな。) このことを書けばハルヒの本心が少しでも垣間見れるのでは。 そう俺は心に思いながらこの恋愛小説を執筆した。 ・・・・・。 ハルヒから何の反応もない。 もう読み終わってもいい時間は経過した。 ・・・・・。 ハルヒはどうやら混乱しているようだ。 しかし表情はあっけにとられたような顔をしていた。 正直かわいい顔をしていた。 ハルヒはついに沈黙を破って話し出した。 「あたし・・・、この話、知ってる。」 「そうか。」 「なんであんたこのこと知ってるの!? あれはたしかに夢だったはずなのに・・・。」 まぁここまでは期待通りの反応だな。俺はそう思いながら話を続けた。 「・・・実は俺も見たんだ。この夢。てかハルヒもこの夢見たことあるのか。」 当然、俺はハルヒが見たことを知っているが、話がややこしくなるので適当に話を合わせるために言った。 「そうなんだ・・・あんたもあの夢見たんだ。」 そしてハルヒはこう言った。 「すごいわ、違う人間がここまで同じ夢を見るなんて!」 ・・・あれ? 「これはきっと、宇宙人か未来人か超能力者か異世界人が私達に対してメッセージを送ったのよ!」 あれあれ? 「こうしてはいられないわ! キョン、この夢を見たときの状況を詳しく話しなさい!」 そうして俺はこの夢を見たときの状況などを話すことになった。 ハルヒには俺の恋愛小説はもうどうでもよく、あの時の話に釘付けだ。 はぁ・・・古泉よ。ハルヒは俺より不思議現象の方が気になるそうだ。 まぁ、当然といえば当然の話か。入学当初と変わってないってことさ。 とまぁそんなこんなで昔話を小一時間程話した。 あの日の夢の話。ハルヒにとっては悪夢だったはずだが、今ではそんなことも忘れて妄想ネタとなれ果てている。 「まさかこんなところに不思議現象があったなんて・・・。気づきもしなかったわ!」 ハルヒは目をキラッキラさせながら話を続けた。 「でも今考えてみればあの夢はいつもの夢とはなにか違っていたわね。くぅ~!SOS団団長として一生の不覚だわ!」 いや、気づかなくて普通だろ?そもそも夢なんだし・・・。一応はさ。 「そうとわかれば試してみるしかないわね!」 ・・・なにをだ? 「決まってるじゃない、もう一度メッセージを受け取れるかどうかを調べるのよ! SOS団始まって以来、やっと掴んだ不思議現象なんだからこのまま逃す手はないわ!」 まぁお前にとっては初めての不思議現象そうだろうけどな。 「で・・・どうやって調べるんだ?」 「あの夢の登場人物はあたしとキョンだけ。他の団員がこの体験をしているとは思えないわ。」 それで? 「あんたとあたしが同じ場所、時間で寝ればもしかしたらまたあの現象が起こるかもしれないわ!」 なんでそう思うんだ? 「そんなのカンよ、カン。だいたいこんな現象が起こったのかわからない以上、手当たり次第実行するしかないじゃない。」 真相を言ってやってもよかったが、それを言うと今まで隠してきたことの核心を伝えることになるのでやめておこう。 古泉はともかく、長門にまで怒られそうだからな。 「というわけで、キョン。あんた今日ここに泊まりなさい。 大丈夫。ママ達は帰ってこないし、邪魔者もいないし。」 「・・・ってちょっと待て! なんでそうなるんだよ!」 俺は思わず大声を出してしまった。俺がハルヒの家に泊まるなんて・・・。 「より高いシンクロにするためにもここで寝てもらうから。感謝なさい。こんなかわいい女の子と一緒の部屋で寝れるなんて、あんたの生涯で二度と無いチャンスなんだから。」 おいおいおい。一応俺だって健康な男なんだぜ!? 「変なことしたら、死刑だからね!」 だから、そういうならせめて違う部屋とかにしろよ! 「もう、うるさいわね! 団長命令よ! 文句言わないの!」 とまぁ俺は結局、団長の権力により同室で寝ることになってしまった・・・。 くぅ、これが朝比奈さんだったら・・・。俺は今日を命日にしたって構わないぜ・・・。 「なにごちゃごちゃ言ってんの? 寝るわよ。」 といいながらハルヒはベットに潜っていった。・・・あれ?俺の寝床は? せめて毛布の一枚くれたって・・・。 「早くあんたも入りなさいよ。」 ・・・どこに? 「ベットに決まってんじゃない。それともあんた、床で寝るタイプ?」 ・・・こいつはなにをいってるんだ? 「言ったでしょ!?より高いシンクロをするって。近づけば近づくほど、シンクロ率も上がるってもんよ。そんなこと言われなくても気づきなさいよ。」 「それは・・・つまり・・・俺とハルヒが添い寝をするってことか?」 「私の許可無しに変なことしたら、地獄行きだからね!」 そうかい。俺は天国いきたし、まだこの世にたくさんの未練もあるしね。生き延びる為にも、頑張るとするか・・・。 こうして俺とハルヒは一緒のベットで一緒に寝ることになった。 なんだ、この罰ゲーム・・・いや、ボーナスタイム? どちらとも捕らえられるこの状態に俺の頭には今までにないアドレナリンが発生していた。 今俺は、ハルヒと背中を合わせて寝ている状態にある。 ・・・正直、俺の鼓動がハルヒどころか部屋中反響しまくっているのではと思うくらい高鳴っていた。 「・・・ねぇ」 ドキィィィ! 「もう・・・寝ちゃった?」 こんな状態でそんな早く寝れるわけないだろ。むしろ、今日は寝れないかもって思うくらい頭が冴えきってるぜ。 「あの夢なんだけどさ・・・。あんた最後、あたしと・・・なにしたか覚えてる?」 ・・・不意打ちもいいとこだぜ。 「あんた、さっきの話では、私と向かい合ったとこまでしか話てなかったけど・・・。」 俺は正直とまどった。その質問は確かに俺の求めていた質問に近い意味を持った質問だった。だが、このタイミングで聞かれるとは予想してなかった。 いや、そんなことはとっくの前に頭の中から消えちまっていた。 「あたしは覚えてる。 あの時の状況、あんたの顔、あんたの話したこと、あんたとの・・・。」 いやはや、今更ながらあの時はよくあんな大胆なことができたな、俺。 「どうなのよ!?」 「覚えているとも。」 忘れるわけが無いだろ。俺の始めての告白なんだからな。・・・ポニーテール萌えなんて。 「・・・じゃああの時と同じことをすれば、不思議現象起こるかな。」 なんでそう思うんだ? 「扉と一緒よ。入口も出口も場所は一緒。つまり、出口でした事をすれば、入口にいけるんじゃないかなって。」 ハルヒよ。今一度問うぞ。お前は俺と最後にしたことをすると言っているのだな? 「・・・そうよ。」 ・・・その後、数秒の無言の時間が流れた。俺の気持ちの整理をするには十分の時間はあった。 無言の時間が与えてもらった俺の回答は、 「ハルヒ。お前、もう少し自分を大切にしろよ。」 「お前が不思議現象をどれだけ渇望しているのか、これまで行動を共にしてきた俺には良く分かる。だがなハルヒ。いくら不思議現象を追いかけるためとはいえそこまで自分を粗悪に扱うな。」 ・・・俺はいったいなにを言っているんだ? 正直に言おう。俺はハルヒとキスしたさ。 このままの流れでいけばきっとすんなり出来た筈さ。 だが。それは違う。俺がキスをしたい相手はSOS団団長のハルヒではない。高校生、涼宮ハルヒなんだ。 好奇心からキスをするようなハルヒとなんかキスなんかしたくない。したくもない。 第一不思議と遭遇するためにほいそれとキスなんかしてほしくなかった。 そんな思いが、そのまま言葉となって具現化されていく。 「たしかにお前の言うとおりにすれば道が開けるかもしれん。だけどなハルヒ、それはお前にとって本当に心の奥底から求めていることなのか?」 ハルヒの応答はない。だが俺は構わず話を続けた。 「たかが不思議現象ひとつの為に、軽率な行動はしてほしくないんだ。・・・わかってくれるか?」 グス。 ハルヒからの応答がきた。 俺は殴られるのかと思っていた。蹴飛ばされるのかと思っていた。 この応えは確かに痛かった。しかし、体がではない。心がだった。 ハルヒは泣いていた。 そして俺は・・・抱きしめられていた。 「・・・なんだよ。」 「・・・。」 また応答が途絶えた。だんまりは長門の得意技だぞ?そもそもハルヒにこんなスキルがあったのか? 「・・・ごめん、出しゃばったこと言ったな。誤る。」 「違うの。」 「・・・じゃあ・・・なんなんだ?」 「キョンはいつも有希やみくるちゃんのことばかり気にしてたから・・・。」 「・・・。」 「あたしは見放されてるのかなって思ってたから・・・その・・・うれしいの。キョンが私のこと・・・心配してくれたことが。」 どれくらいだろう? 時間はほんの数分しか経っていないはずだが、俺には数時間のような時間が流れた。 ハルヒが俺に見せた本音。 それは今までのものとは違い、どこかテレもあり、且つうれしさからでたといった暖かい本音だった。 いつもは見せないハルヒだったせいもあってか、俺は言葉というか、思考することさえも忘れていた。 ただ、背中でハルヒのぬくもりを感じていた・・・。 夢を見た。 いつものように晴れた日。 いつものようになる目覚ましのアラーム。 「・・・あと5分。」 と、いつものように寝ぼける俺。 「ちょっと、いつまで寝てるの!?」 いつものように起こしに来る妹。 「ほんとに毎日だらしないわね。早く起きなさいよ。さもないと罰金よ!」 ・・・あれ? 何か違う。というか何が違うのかはわかっている。 そうか、俺はハルヒと・・・。 ピピピピピピピピピ! と、俺の眠りを妨げる音が当たり一面に鳴り響いた。 「・・・あと5分。」 「ちょっと、いつまで寝てるの!?」 「ほんとに毎日だらしないわね。早く起きなさいよ。さもないと罰金よ!」 ガバッ! あまりのデジャヴに俺はあわてて目覚めた。 ・・・寝ぼけているせいか、今の自分の状況が掴めない。 「おはよ。もう朝よ。」 そこにはパジャマではなく、普段着に着替えたハルヒが立っていた。 そしてようやく、頭の整理ができてきた。 「そうか、俺、ハルヒん家に泊まったんだっけ。」 夢と現実をまだ区別仕切れていないが、今の現状はなんとか把握できるくらいまで目が覚めてきてはいるが、未だに世界がぼやけている。 「まだ寝ぼけているようね。シャワーでも浴びてきたら?」 それを察してか、ハルヒは俺に古来から伝わる目覚めの方法を提供してくれた。 用は水を浴びて来いってこったな。 まぁ、俺がそう勝手に解釈しただけだけど。 「そうさせてもらうよ。」 俺はハルヒのご好意に甘えることにして、シャワーを浴びた。 浴び終わり、風呂から出ると、キッチンからなにやら音が聞こえた。 その音に導かれるかのように、俺はキッチンに向かった。 「どう? 目が覚めた?」 「ああ、バッチリだ。」 何気ない会話がそこにあった。 なんだこの会話は。まるで俺の夢の続きじゃないか。 今起きている自分の人生の展開に少々戸惑っていたら不意にハルヒが 「それじゃ朝ごはんにしましょ。」 と満面の笑みを浮かべながら食卓に座った。 それにつられ、俺もそのまま席に着いた。 「いただきます。」 なにげない朝食。 しかし、ハルヒあまりにもリアルに再現されている。気持ちの悪いくらいに。 そして俺は聞いた。 「なぁハルヒ、今朝はどんな夢をみたんだ?」 ハルヒはハムエッグを突きながら 「なんでそんなことを聞くのよ。」 と返答してきた。 「いや、なんというか、昨日の実験は成功したのかな・・・と思ってさ。俺、実を言うと朝、目が覚める夢しかみてないからさ。」 「フフ。そっか。」 なんとも不敵な笑顔を俺にしてきた。 なんだよ、その笑みは。 そしてハルヒは言った。 「団長命令よ、昨日の夢、必ず守りなさよ。」 fin
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/987.html
朝起きると――ハルヒになっていた。 いやマジで。頬をつねってみたが悲しいことに夢じゃないらしい。 まず違和感を感じたのは髪の毛だ。 どうもムズムズすると思ったが何故か肩まで伸びている。 しかし寝ぼけたアタマでは「あれ?俺ってこんな髪長かったけ?」ぐらいにしか思えなかった。 次に違和感を感じたのは・・・下半身だ。 いつもなら爽やかな朝を告げるかのごとく、 雄々しく(誇張アリ)そびえたっているハズの『アレ』の感触がない。 この年にしてイ○ポかと一瞬絶望しかけたが、それ以前の問題だった。 「ついてない・・・!?」 ここまで認識して初めて俺は自分の身体の異常に気がついた。 そして極めつけは寝ていた部屋である。 散らかったいつもの俺の部屋とは違う、小奇麗に整理された部屋・・・。 そして所々に置いてあるぬいぐるみやら明るい色を基調としたカーテンや ハンガーにかかってるメイド服やバニーガールの衣装(って、え?)が、 ここは紛れもない女の子の部屋だと教えてくれる。 そして俺の部屋にあるべくもない大きな姿見の前に立った瞬間、全てを悟ってしまった。 ――そこには、常につけているカチューシャを外した乱れた寝癖頭で、 はだけたパジャマ(正直見えそうです・・・色々・・・)に身を包んだ、 それはそれは可愛らしい美少女――いや、涼宮ハルヒの姿があったたのだ。 さてさて、一体どうしたものだろう。 さっきから延々と頬をつねってみてはいるものの・・・一向に目が覚める気がしない。 おかげで俺(いやハルヒのか)の右頬は真っ赤っかだ。後でハルヒに怒られるかもしれない。 そんなことを思うくらい、何か現実を認識したら一気に冷静になってしまった。 俺もSOS団でのトンデモな日常に慣れて、感覚が麻痺してしまったのかな・・・。 いつのまにか部屋を隅々まで見回す余裕も生まれていた。 ほうほう・・・熊のぬいぐるみか・・・意外にファンシー趣味だな・・・。 本棚は・・・何かよくわからんSF小説やら『UMA発見!!』とかそんな本ばっかだな・・・。 と思ったら、隅っこの方に『いかにも』な感じの少女マンガもあったり・・・。 その隣のCDラックには主に洋楽中心に様々なCDが入ってる。 お、ENOZのアルバムなんかあるぞ・・・?彼女達が卒業記念に自主制作した5曲入りEPだな。 あ、ギターなんかも立て掛けてあったりするぞ。また文化祭でバンドやるつもりじゃないだろうな・・・。 と、そんなこんなで俺は女の子の部屋をじろじろ見回すという社会通念的には余りよろしくない、 しかし、男にとっては悲しい性ともいえるような行動を取っていた。 あー、流石にタンスの中身空けたりはシナイデスヨ?ホントデスッテ。 いやあ、ああ見えてハルヒは下着は結構かわいいのが好・・・ゲフンゲフン・・・。 そして、ふと今度は机の上に視線を走らせた時・・・俺はとあるものを見つけてしまった。 それは写真立ての中の1枚の写真――。 写っていたのはハルヒ――とハルヒに無理やりに腕を組まれ、苦笑いしている俺。 あれ?おかしいな・・・この写真どっかで見た気がする・・・。 そうだ・・・先月連休を利用してSOS団+鶴屋さん&ウチの妹、 といういつものメンバーでいった山合宿の時に皆で記念に撮った集合写真だ。 この写真は・・・俺も古泉(無論これを撮ったのは、宿泊先として古泉が見つけてきたペンションに当たり前のようにいた 新川さん&森さんコンビのどっちかだった)から受け取った。 でも、あくまでも全員写った写真だったはずだよな? と、いうことはだ。 ハルヒは・・・全員集合の写真を切り取って俺とのツーショット写真を作ったってこと? 所謂アレだ。中学生とかがよくやる修学旅行のクラス集合写真を切り取って、 自分と好きな異性があたかもツーショットで写っているかのようにする・・・アレだ。 一気に顔が赤くなるのがわかる。 姿見を見てみると・・・むむっ!照れたハルヒは意外に可愛いな・・・じゃなくて、 つまりハルヒは・・・俺のこと・・・? ヤバイ・・・これは見てはいけないものを見てしまった・・・。 何と言うか嬉しいやら恥ずかしいやら嬉しいやら恥ずかしいやら・・・ってオイその2つだけかよ! と、混乱する俺を正気に引き戻したのは―― 『ギイッ』 という部屋の扉が開けられる音だった。 入ってきたのは――、 「え、俺?」 見紛うことなき、正真正銘、俺だった。 「何やってんだ?ハルヒ?」 普通に声をかけてくる『俺』。 「い、いやぁ・・・何でも・・・」 狼狽する俺。普段の男口調にならなかったのは不幸中の幸いだった。 「っていうか・・・なぜここに・・・」 思わず聞いてしまった。 「何言ってんだよ、ハルヒ。昨日は俺が泊ったんだから、いて当然だろ?」 はぁ? 「俺もついさっき起きたんだけど・・・スヤスヤ寝てるお前を見たら起こすのが忍びなくてな。 ちとトイレに行ってたんだよ」 え・・・ということは一緒のベッドで・・・? 「昨日は随分激しかったからな~。疲れてたんだろう?」 ええええええええええええええええええええええ!!!!!!! つまり俺とハルヒは『そーいう関係』ってワケですか? 「ん?顔が赤いぞ。どうしたんだ?」 そりゃあ赤いに決まっているだろう。そして顔をみるみる近づけてくる『俺』。 「もしかして・・・昨日の夜のこと思い出したか?」 思い出しとらんわ!!つーか知らん!!断固知らん!! 「照れてるハルヒって・・・結構可愛いな・・・」 ああ、やっぱりそう思う?俺もそう思ってたんだよね・・・ってちがーう!! 「何か・・・そんなお前見てたら・・・俺・・・」 ちょっとちょっと!!なぜ肩に手をかける!? 「ダメだ。我慢できね」 とうとうベッドに押し倒されてしまう俺。 ああ・・・せめて初めては女の子相手で・・・ってこの『俺』はそれを実現してるわけで、 ってそんな場合じゃない! 『男同士というのも結構いいものですよ』 五月蝿い、黙りやがれ脳内古泉。大体、今俺はハルヒだから男じゃない。 「それじゃあ、頂きます」 『俺』が俺の耳元で囁く。 「アッーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」 断末魔の叫びが響き渡った・・・。 「はっ!!!!」 ・・・気がつくと、そこはいつもの俺の部屋。 見慣れた家具に机、ベッド・・・・。 「夢かよ・・・」 今すぐにナイフを胸に突きつけたい気分だ。 フロイド先生も爆笑どころじゃない。こんなアホな夢、笑い死にしてしまうだろう・・・。 しかも・・・、 「・・・マジかよ」 俺の下半身の『アレ』は、これまでにも類を見ないほど元気にその存在を主張していた。 あんな夢で・・・マジで自己嫌悪に陥るぜ・・・。 結局その日は学校に行ってもハルヒの顔をマトモに見ることすら出来なかった。 まあ・・・夢のことを思い出してしまうってのもあるんだが・・・、 何よりも今日きっとハルヒはあのタンスの中のどの下着をつけているのかということを 否がおうにも想像してしまうのだから・・・。 うーん、俺としてはあのピンクのチェック入りのヤツなんて良かったんだが・・・。 ああ、ダメだ。俺は本格的に故障してしまったらしい・・・。 ちなみにそんな夢はその後は見ることはなかったとさ。 (おわり) キョンになっちゃった
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4000.html
古泉「なるほど…そんな理由があって御三方は旅を続けていると言う訳ですか…」 キョン「そうだ。俺達は強くなる。あの雷凰丸とやらを倒すぐらいまでにな」 古泉「そして、信長の軍も全て始末する…そういう訳ですね?」 キョン「ああ、奴に殺された同志は数えきれないほどだ。そして長老はあいつがまだ生きていると言っていた。信長を倒し、皆の仇を討つ。これが俺達の目標だ」 古泉「素晴らしい目標ですね。…信長は確かに生きているでしょう。理由はあの圧倒的な威圧感を漂わせる城…」 ハルヒ「安土城が未だに焼き払われていない…そういうことね」 古泉「その通りです。流石は涼宮さんですね」 ハルヒ「なぁにっ!簡単なことだよ!ワトs 長門「…お客さん?」 うぉ長門!!いつの間に!? 頼むぜ長門、せめて入る時はノックぐらいしてきてくれよ いくらお前でもイキナリ現れられたら何か別な霊的のもんを連想しちまうじゃねえか 長門「ノック…した…」 そうかい、そりゃすまなかったな キョン「まあ、とりあえずコイツが長門だ。ほら長門挨拶しろ」 長門「…!!」 キョン「どうした長門?」 長門「…なんでもない」 ハルヒ「?どうしたのよ有希?早くなさい」 長門「長門…有希…」 古泉「僕は古泉一樹と申します。よろしくお願いします。長門さん」 長門「…ユキって呼んで」 キョン「!?」 ハルヒ「!?」 古泉「!!!!!?????」 一体どういうことだ? この状況はなんだ? まるで長門が古泉に一目惚れしたような… いや、まさか長門が…そんな馬鹿な しかし俺の横でいくらか頬を赤く染めながら古泉の方をじっと見つめているコイツを見る限りではそうとしか思えない いや、そうとしか言い切れない 今俺は確信に満ち満ちている。そう、満ち満ちているとも 長門の新しい表情を見て俺の下半身に血液が集中しちまって、我がマスターソードは異例の巨大化を遂げようと…って何を考えているんだ俺!! しかしハルヒの方を見るとあいつも唖然とした顔つきで長門の方を見ている。 そりゃそうだろう。俺達はこんな長門など一度も見たことがないのだからな 古泉「…え、ええと・・・その・・・」 長門「…いっくん」 古泉「ちょ、ちょっとまってくだsssss」 長門「好きなようにして・・・」 浴衣を脱ぎながら古泉の首に手をまわす我が旅の仲間こと長門有希。 正直、たまりません… 性欲を、持て余す… あああああ何を言っているんだ俺は! こんな状況は見ていられん ハルヒも顔が真っ赤だ!!まるで湯でダコだ! ある種の臨界点を突破しかけていたこの部屋の雰囲気を一瞬で破ったツワモノは女将さんだった ガラガラっ 女将「皆様お菓子をお持ちしましたわ。一緒に食べませんこと?・・・・・あらあら皆様昼間からお熱いことで。でも余り早い時間からそういうことをされると色々困りますわ。出来れば夜でお願い・・・ね?」 長門「…残念」 古泉「は、ははは。はははははははは、はぁ…」 そんなこんなで俺達は女将さんと五人で世間話をした後、女将さんが部屋を離れると沈黙の極みとなった部屋の雰囲気をあらためて立て直すべくかハルヒが ハルヒ「そうだ!もう一度みんな自己紹介しましょ!」 などと言いだした。 まあ今回ばかりはこの気まずい沈黙を打破しただけ感謝するとしよう ハルヒ「涼宮ハルヒ!拳闘治療師、伊賀女。使える術は傷を癒したり体を楽にする基本の回復技よ。剣術も使えるわ、双剣使いよ!」 キョン「」 ハルヒ「アンタはキョンでいいわ」 キョン「・・・・・はぁ…まあ本名はさっき教えたからいいか…。俺は伊賀出身の忍者だ。術は炎の系統に属するものを使える。まごうことなき一刀流だ」 長門「長門有希…術の系統は大体なんでも…一刀流」 古泉「古泉一樹です。見た通りの陰陽師です。式神を使った呪術は一通り会得していますので、その内お見せする機会もあるでしょう。よろしく」 ハルヒ「これで仲間が一人増えたわね」 キョン「確かに一人増えはしたが、やはり戦力に偏りがあるな」 古泉「その事実は否めませんね。涼宮さんを除く我々三人はいわば完全に攻撃タイプです。更に涼宮さんが攻撃と治療を行う割合は良くても半々でしょう。違いますか?」 ハルヒ「そうねえ…ちゃんとした治療師も欲しいわ。羅漢とかを仲間にしましょう」 キョン「あのなハルヒ…仏教修行を積んで最高位に達した聖者を総称して阿羅漢、略称で羅漢と言う。そんな徳の高い奴らが俺達の仲間になってくれる筈ないだろう」 ハルヒ「そこをなんとかして仲間にするのよ!」 キョン「そこらへんにいる山伏や僧でもいいじゃないか」 ハルヒ「山伏なんて酒臭くて嫌よ。僧も説教臭そうだし」 古泉「ハハハ、間違ってはいませんね」 ハルヒ「僧兵なんかもいいわね!ほら武蔵坊弁慶とか有名じゃない!!」 キョン「あれは特別だろう。それに治療専門じゃない」 ハルヒ「う…」 長門「…」 ハルヒ「有希も何か意見出しなさいよ」 長門「…町の外で交戦の音がする」 キィン!!キンキン!! ハルヒ・キョン・古泉「!!」 キョン「…今この国の兵達は合戦中か?」 古泉「ええ、殿方もろとも出陣してると聞いておりますが?」 キョン「…って事は、これはその殿が不在の隙を狙われたってことで良いんだな?」 古泉「はい、真に結構な回答かと」 キョン「なんて言ってる場合か!!町民を助けに行くぞ!!!」 ハルヒ「はい刀!!」 キョン「おう!」 古泉「では僕も微力ながら参戦することに致しましょう」 影の軍下忍「この城下町を警護する武士共はほぼ鎮圧致しました」 ???「御苦労。下がっていいわ」 影の軍下忍「ハッ」 ???「大した武士もいないこの国じゃ、やっぱり下忍でも鎮圧は容易ね。さて、後は城を焼討ちすれば任務完了かしら」 ザシュッ 影の軍下忍「ぐあああああ!」 キョン「そうはさせないぜ」 ???「…!?」 バキッ! 影の軍下忍「おふぅ!」 ハルヒ「全く、毎度毎度思うけどなんでこう張り合いがないのコイツらは」 ???「貴方達何者?随分な登場の仕方じゃない」 キョン「俺達は単なる旅の輩だぜ。お前こそ何者だ?信長の回し者か?」 ハルヒ「こいつらの外装を見る限りどう考えてもそれっぽいけどね」 朝倉「あら、それは失礼したわ。私の名前は朝倉涼子。影の軍の中忍よ」 キョン「中忍か…お前は少しぐらい手応えがあるんだろうな?」 朝倉「私が貴方より弱いとでも言うの?」 キョン「さあ?やってみれば分かるんじゃないか?」 朝倉「そう、いいわ。じゃあ死んで♪」 シュババババババババババ!!!! キョン「!?うおっ!ちょ!」 な、なんだなんだ? いきなり無数の棒手裏剣が飛んできたぞ?? 偶然全部かわせたから良かったものの… キョン「お前今何をした!?」 朝倉「全部私が投げたのよ?」 キョン「嘘つけ!あんな一瞬で全部投げられる訳無いだろ!!」 朝倉「敵に本当のことを教える忍者がどこにいるの?死になさい♪」 シュババババババババババ!!!! キョン「くっ…炎術・火走!!」 体全体から放たれた馬ほどある大きさの炎は全ての棒手裏剣を飲み込んだ キョン「どうだ?」 朝倉「甘いわね。後ろよ」 キョン「ちっしまっ…」 朝倉「!?」 突如巨大な竜の形をした水が朝倉を襲い、飲み込もうとする 長門「氷術・水竜…」 キョン「すまん助かった…」 長門「いいから貴方は前を向くべき」 キョン「ああ」 巨大な水の竜に飲み込まれながら、朝倉は指を交差させ術を唱える 朝倉「天術・空剣!」 風の刃は、瞬く間に水竜を切り刻むとただの水へと姿を戻させた 朝倉「水の術で私を倒せると思っているの?」 長門「…彼女は天の系統に属する術を使用できる。主に風」 キョン「そうか、だからあれだけの棒手裏剣を簡単に操れたんだな」 長門「そう」 キョン「天か…ならこちらに勝機はある!」 ???「確かに炎と風じゃ相性は良くないね」 キョン「誰だ!?」 国木田「僕の名前は国木田。君の相手は僕がしてあげるよ」 キョン「その服…あんた方士か」 国木田「よく知っているね。そう、僕は仙術を学んでいるものさ」 古泉と同じ道士の類なら古泉が相手をすれば良いだろう あの野郎どこにいやがる 国木田「いくよ」 キョン「仕方ねえ相手になってやるよ仙人さん!」 ビュンビュン!! 朝倉「どうしたの?私の風の攻撃に手も足も出ないのかしら?」 長門「術の素早さは私と同等…でも」 朝倉「これで終わりよ。死になさい」 長門「炎術・火翔」 朝倉「!?」 火の翼が朝倉の体を覆う 長門「私が行使出来る術の系統は一つでは無い。そして貴方の術系統は火が苦手…」 朝倉「ああああああああああああああああ!!!」 国木田「仙術・風鬼!」 間一髪のところで国木田の放った風の鬼が朝倉にまとわついていた炎を飛ばす キョン「しまった! はああああああ!!!炎滅斬!!」 国木田「ぐっ!」 朝倉「不味いわね・・・国木田は接近戦にフリよ」 長門「貴方の相手は私」 朝倉「そうしたいのはヤマヤマだけど悪いわね。天術・濃霧」 そう朝倉が唱えると共に、濃い霧が辺りを包み長門の視界を奪う 長門「…うかつ」 キョン「終わりだ国木田!」 国木田「…君はもう少し自分の後ろに注意すべきなんじゃないのかな?」 キョン「なに?」 キョン(棒手裏剣の雨…!?) シュバババババ!! 朝倉「ふふふ」 キョン「まず…」 朝倉「もう遅いわ。今度こそ本当に終わりね。この棒手裏剣の雨に突きぬかれなさい」 キョン(くそっ…ここまでなのか…!?」 『陰陽道の契約者として示す。遥か古くより我に使われし式神よ、今こそその礎たる力を解き放て!!』 古泉「陰陽道・土鬼!!」 キョンの目の前に大きな土の塊が現れ、朝倉の手裏剣を全て弾く 古泉「どうも遅くなりました」 キョン「遅すぎる。今まで何をやっていたんだ?」 古泉「涼宮さんと共に他の下忍達を討伐していました」 ハルヒ「全く情けないわねーキョン」 キョン「ちっ返す言葉もないぜ」 ハルヒ「とりあえずこれで五人そろった訳ね」 朝倉「ちょっと分が悪いかしら?」 国木田「そうみたいだね」 朝倉「この勝負、次回に持ち越しましょう。じゃあね貴方達」 国木田「仙術・風鬼」 そう言うと朝倉は国木田の呼び出した風の鬼に乗って城下町を後にした ハルヒ「逃げられたわね・・・」 キョン「ああ…だが……おっと足がフラフラするぜ」 長門「…長い間、炎の術を自分の刀に収束しすぎたのが原因と考えられる。単なる気力消耗。怪我はない」 古泉「しかし間一髪でしたねえ」 長門「向こうも私達と同等の力、ミスをした方が負けていた」 古泉「確かに、彼等は僕達とほぼ同等の力を持っていました。一人はくノ一でしたが、もう一人の方は…?」 キョン「方士だ。なぜ影の軍に方士なんかが味方するかは分らんけどな」 古泉「方士…と言われると仙術を学びし者ですか…どうりで、あの風鬼は僕が式神を使って行使するものに極似しています。」 長門「そんなことより…戦いで疲れたから慰めて欲しい…いっくん」 古泉「い、いいいいいいえいえいえいえ!僕の力ではやや不足気味で…」 長門「そんなことない・・・だめ?」 古泉「う、上目使いで見られてもですね・・・そ、それは…」 ハルヒ「全く…有希も中々のやり手ね!」 キョン「もう…元気ビンビンだぜ!」 ハルヒ「・・・・・アンタは少し眠ってなさい!!」 ゴン キョン「ひゃーい」 涼宮ハルヒの忍劇4
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/4549.html
俺の提案は賛成三、無言一で可決された。 「逆世界入り込みオイルとお座敷釣り堀~」 ドラえもんが俺の所望通り、今回の作戦に必要な道具を出す。 そのお座敷釣り堀を引いて、逆世界入り込みオイルを垂らした。水銀を入れたように光が反射する。 これで準備は完了だ。 後はゲストの到着を待つのみとなった。 待つと数分。がちゃりと音がしてどこでもドアが静かに開くとその向こう側で朝比奈さんがおっかなびっくり、長門が無表情のまま、ぐーすか寝ているハルヒを抱えていた。 ハルヒが完全に寝ているのを確認した俺は鏡のようになった水面に頭を入れた。 そこにはたしかに映画の通りの空間が広がっている。 俺の部屋とは全てがあべこべだ。時計が十一時を示し、窓からは日光が漏れている。 「では、行きましょうか」 心底楽しそうな微笑みを浮かべて言った古泉を先頭にして、俺達は、誰もいない“鏡面世界”へと静かに入り込んだ。 「これがほんとうに鏡の中の世界なんですか?」 ハルヒをベッドに置いた朝比奈さんが、俺の部屋を見渡してそう呟いた。 たしかに俺もにわかに信じがたい。 そこには目に写る光景が全て逆なだけで、変わらない空間が広がっている。 長門でさえも、無表情の中にわずかな驚きを浮かべているのだから、やはり未来のロボットとだけ言うことはある。 さて、ともかくゲストに起きて貰わねば。 「ドラえもん。ハルヒを起こしてくれ」 うなづいたドラえもんは、 「ネムケスイトール~」 と、フシをつけて安易なネーミングの掃除機のような形をしたやつを出して、紫色のモヤを吸い取りだした。 その間に朝比奈さん、長門、古泉に一旦部屋の外へと出て貰う。 「ふぁっ……んー」 ハルヒが目尻に涙をしたためて、これでもかとばかりに伸びをする。 そして、がばっと起上がったハルヒと目と目が合った。 さて、ここが一番の正念場だ。 「……え? キョン?」 「これは夢だ」 「は? あんた何言ってんの?」 ハルヒは露骨に馬鹿を見るような目で俺を見た。 しかし、ここで挫けては全てが水の泡だ。 「お前、前に言ってたよな。“宇宙人や未来人、超能力者を探し出して一緒に遊ぶんだ”ってな」 「……そうよ」 「こいつじゃダメか?」 そう言って俺が示した人物によって、怪訝な顔のハルヒがエクアドル産ひまわりのような特大の笑みを浮かべるまで大した時間はかからなかった。 多分、今のハルヒの頭には夢か現つかなんて考えはとっくに消え失せているに違いない。 「あんた、一応聞くけど名前は?」 「僕ドラえもんです」 ステレオタイプの自己紹介を聞いたハルヒは今にも跳ねんばかりに、 「よく来てくれたわ、ドラえもん。それにキョン、あんたもよくやったわ」 そこで俺は、以前の花見から密かにあこがれていた行為を行なった。 ぱちんっと景気よく指を鳴らすと、古泉と朝比奈さんと長門がゆっくりと出て来た。 これで役者は揃ったな。 俺は誰に言うとでもなく、そう呟いていた。 「みくるちゃん。書記お願い」 「はぁい」 真っ先にハルヒが所望したどこでもドアで移動した先は文芸部兼SOS団の部室だった。 なにもここじゃなくていいだろうに。 「なに言ってるの。こういう時こそ平常心でなにするか考えなきゃ駄目なのよ」 そう言ってのけたパジャマ姿のハルヒはどうみても、浮き足立っている。部屋の配置があべこべになっているのにも気付いていないようだ。 まあ、これからなにをしようかってことで頭が一杯で、そこまで気が回らないんだろう。 「じゃ、ミーティングするわよ。みんなやりたいことを言いなさい。まずはキョンからね」 俺か。 俺の知る限りではドラえもんの不思議道具を用いてできないことはないが、そのなんでもできるってことが逆に俺を悩ませる。 ちょっとした世の中の心理に気付いた俺の熟考の結果、導き出された答えは、 「今度のテストの答案が欲しい」 「バカじゃないの。そんな下らないことじゃなくてもっと夢のあることを言いなさい。」 下らなくもなければ、夢のないことでもないのだが。第一、赤点レーダーに尾翼がひっかかりそうな俺にはとても魅力的だ。 「分らないならあたしが教えてあげるわ。だから、それは却下よ」 その一言で俺の案はあえなく棄却された。 「古泉君はなんかある?」 「そうですね。空を自由に飛びたいです」 「いいわね。みくるちゃん、今の書いて」 「はぁい」 ホワイトボードに朝比奈さんの可愛らしい文字が踊った。 空を飛ぶって、いつも飛んでるじゃねえか。 「あれは飛ぶという感覚はないんですよ」 耳元でウィスパーボイスが囁かれる。 タイムスリップ願望だけじゃなく、飛行願望まであるのか。 「ほんとうはタイムマシンに乗りたいんですが、そうなればこの夢物語が終らない可能性が出てきますからね」 そう言って古泉は肩をすくめた。 こいつなりに妥協したんだろうか。 「じゃ、次はみくるちゃんよ。なにかある?」 「あ、あたしですか……えっと、じゃあ飲茶用の急須が欲しいです」 どうやら、朝比奈さんはほんとうに自分が欲しいものをリクエストしたようだ。 ハルヒすら呆れたように、 「そう。じゃ、ユキはなんかある?」 「…………」 長門は即席麺の調理時間を遥かに超過した沈黙の後、 「図書館」 とだけ呟いた。 図書館ごと欲しいのかよ。 「蔵書だけ欲しい。だけど、私の部屋には格納するスペースがない。図書館自体が望ましい」 なんとも長門らしいと言ったら長門らしいが。 「もう、ユキまでそんな即物的なこと言って」 ハルヒはさも憤慨したように言った。 そういうお前はなにが望みなんだよ。 「あたし? あたしはビッグライトよ」 そんなもん、なにすんだ。 「決まってんじゃない。大きくなんのよ」 ハルヒはそう言って胸を張った。 さようか。ドラえもん出してくれ。 「ビッグライトとタケコプタ~」 所在なげにたたずんでいたドラえもんがやっと出番だ、とばかりにポケットから大した機密性を持たない道具を出した。 「みくるちゃん。こっちきなさい」 「ひぇぇ」 ハルヒがフェルトペンを持ったままの朝比奈さんの首根っこを引っ掴んだ。 恒例の流れに俺と古泉は席を外そうとしたのだが、呆然とその光景を眺めていたドラえもんは動かず、引きずるように外へと出した。 「一応、順調みたいですね」 ああ、何とかな。 「ところでドラえもん君、ちょっと四次元ポケット見せてくれませんか?」 「え? いいけど」 了承を得た古泉は膝をついてドラえもんの腹部にあるポケットに頭を突っ込んだ。 ただでさえ不思議空間にしょっちゅう出入りしてんだからいいだろうに。 そうこうしている内に部室の扉が開いて、中からバニーガールの格好をした朝比奈さんとハルヒが出てきた。 なんでそんな格好してんだよ。 「こんなチャンスないんだから、大きくなったみくるちゃんを見なきゃ損よ」 たしかにそれには同意せざるをえないな。 ちょっと、というかかなり見てみたい気がする。 「ほらほら、行くわよ」 ハルヒは部室の窓を開け放ち、頭にタケコプターを乗っけた。バニー衣装にはポケットがないためか、胸にビッグライトをさす。 そういや、実際にこれを使うとどうなるかって研究した本があったな。その内容によると、首と身体がおさらばしてしまうんじゃなかったっけ。 そんな俺の心配を余所にハルヒは朝比奈さんを抱えたまま窓から身を乗り出すと、鳥のように飛んでいった。 辺りにひゃあああ、という朝比奈さんの悲鳴が木霊する。 「これはどうやら反重力発生装置らしいですね」 じゃあ、このプロペラみたいなのは飾りか。 「そうとしか言いようがありませんね。さて、皆さん行きましょうか」 古泉が修学旅行前夜の小学生のような顔でそう言うと、 「僕はちょっと疲れたからここにいていい?」 お前がいなきゃ話にならんのだが。 「この疑似空間のせい」 長門がそんなことを口にした。 どういうことだ。 「涼宮ハルヒがこの空間を夢と認識し、物理法則が普通の空間とは異なっている。ドラえもんが有する内部回路に不具合が生じている可能性がある」 「どうにかできるか?」 「やってみる」 仕方ないな。なんとかなったら来てくれ。 「これを渡しておくから、なにかあったら使って」 と、ほんとうに調子が悪そうにドラえもんがスペアのポケットを渡してきた。 「分かった。長門、ドラえもんを頼む」 そう言って、長門に任せて俺と古泉はハルヒの後に続いた。 一瞬の落下感の後にフワッと身体が浮くような感覚に囚われる。 「どうしてどこでもドアがあるのに、タケコプターなんてあるのか。なんて考えてましたが、その理由が分かった気がします」 ほう。一応聞いてやろうか。 「車が大量生産される時代にも関わらず、我々は徒歩を用います。それから分る通り徒歩には徒歩の良さがあるように、タケコプターにはタケコプターなりの良さがあるんでしょうね」 たしかにこの浮遊感は他では味わえないな。 そんなことを思いながらあれこれ試してみた。 身体を前に倒すと前に進み、立てると止まるというふうに出来ているようだ。 しばらくそうやって最高速度でも試そうかと思った瞬間、目の前を行く古泉の姿が消えた。 いや、俺がなにかに包まれたのか? 俺の視界一杯にやけに生暖かい空間が広がる。 「みくるちゃん、いいもん捕まえたわ」 空気がびりびりと震えるような大声がしたかと思うとぱかっと上半分が消失して、巨大な朝比奈さんと目があった。 「あっ、キョン君!」 俺は最大瞬間風速六十メートルほどの甘い吐息に吹き飛ばされそうになる。 朝比奈さんの豊かな部分はさらに巨大化して、そこには二世帯が優に生活できるほどの面積があった。 まあ、その権利は誰にも渡す気はないが、 「ビッグライトもう使ったのかよ」 「当たり前でしょ。あたしはみくるちゃんとしばらく遊んでるから、あんたも遊んでなさい」 そう言うと巨大ハルヒは胸一杯に息を吸い込んで、ふーっと手のひらに乗っかっていた俺に吹きつけた。 台風の比ではない強風にあおられて俺はきりもみ状態で吹っ飛ばされた。 あわや地面と直撃する寸前になんとか体勢を立て直すことに成功する。 いっそのこと地球破壊爆弾でもぶつけてやろうか。 そう思ってハルヒの方を見ると、その馬鹿げたサイズが分かった。 バニー衣装の耳だけで車一台ほどある巨大ハルヒの身長は校舎の優に二倍はあった。目測で三十メートルと言ったところだろう。 ハルヒはこれまた巨大バニーの朝比奈さんの手を取ると、一足飛びで俺が毎朝暗澹たる気分で登っている通学路を下っていった。 俺もああやって通学すれば朝の貴重な睡眠時間がのばせそうだ。ただ、ものの三日もしない内にNASAあたりにガリバーのように縛られて解剖されかねんのが問題だな。 いや、しかし勢いがつき過ぎて…………ああ。 ハルヒは勢いを殺し切れずに丘の下に広がる密集した住宅地へと猪の如く突っ込み、建て売り一軒家を十件全壊させた。 それが楽しかったらしく、まるで石ころでも蹴るように住宅地を更地にして言った。 「ひぇぇ、涼宮さん駄目ですよ」 朝比奈さん。あなたもよろけた拍子に二三軒踏んでますよ。 「これが“鏡面世界”でよかったですね」 ふらふらと浮いて近寄ってきた古泉がそう言った。 「ああ。ただ、やってることが“神人”と変わらないように見えるがな」 「あれは涼宮さんの破壊願望の現れですからね。まあ、涼宮さん自身この世界を夢と疑ってはいないようですから、作戦は成功と言えるでしょう」 そう言って、ハルヒの精神分析医は肩をすくめた。 しかし、いつまでハルヒがこの世界を夢だと思うかが問題だ。 「涼宮さんがこれを現実だと認識したら、それこそ今の世の中を席巻している物理学や化学は一辺するでしょう。ただ、その可能性は限りなく低いと思いますよ」 どうしてそんなことが言えるんだ。 「涼宮さんは興味を抱くとそれ以外のことを重視しません」 あいつは楽しければそれでいいってところがあるからな。 「そういうことです。だから、僕たちは涼宮さんを飽きさせずに満足させる必要があるんですよ」 それが一番の難問なんだがな。明日までには片付けないと、学校が始まってしまう。 「その必要もないと思いますよ。ほら、あれを見て下さい」 古泉がそう言って示した先にはあべこべになった時計があった。その秒針は止まったまま氷ついたように動かない。 壊れてるのか。 「いえ、時間が止まってるんですよ」 さらりと言うな。どういうことだ。 「感覚としか説明できないんですが、ここは涼宮さんが作り出す閉鎖空間に似ています」 あそこは時間が止まってるのか? 「いえ、微妙にゆっくりとではありますが時間は進んでいます。ただ、この空間に於いてはほとんど進んでいます。ただ、この空間に於いてはほとんど進んでいません」 月曜の朝学校に行ったら俺たちだけ中年になってた。なんて嫌だぞ。 「そのためにも、涼宮さんを満足させないといけませんね。では、僕はもう少し空中浮遊を楽しんできます」 そう言って古泉はふらふらと飛んでいった。 呑気なもんだな。 せめて俺だけでも、とハルヒが満足しそうな道具を考えてみてもいまいち思いつかない。 今のうちになにがあるかだけでも聞きに行くか。 俺はふらふらとSOS団の部室へと戻った。 「おっ、治ったか?」 窓際で外を見つめていたドラえもんに尋ねたが一切の反応がない。 不思議に思って窓から中に入ろうとした俺は思わず落ちそうになった。 そこでは焦点の合わない目で虚空を眺めていたドラえもんの頭と胴体が別々の場所に置かれていた。 「……長門、これはどういうことだ?」 オイルまみれになりながら、ドラえもんの首から出た導線をいじっていた長門は、顔も上げずに、 「回路の物理的な装置を用いた流れをエネルギーのみに限定して再構築している」 と、呟いた。 はたして治るんだろうか。 「治る」 どのくらいかかるんだ? 「分らない」 口数少なく肯定系で話す長門の口から否定語が飛び出してきたことには驚いた。 「エネルギー回路の情報結合にかかる時間は不明。ただ、治すことは保証する」 自信たっぷりな無表情という矛盾に満ち溢れた表情で長門はそう宣言した。 しかし、この光景は不味いな。首と身体が分離したドラえもんなんて子どもに心的外傷を与ええるだけだ。 「分かった。ただ、これはちょっとやばい。どこか別の場所でやった方がいいな」 長門はおもむろに立ち上がっると、出しっ放しになっていたどこでもドアで自分の部屋へと繋いだ。 そうして胴体を抱えると、スタスタと部屋に戻っていく。 となると必然的に残されたドラえもん生首は俺が運ばねばならんようになった。 虚ろな表情を浮かべるドラえもんが不憫になって、縁起でもないが台ふきで顔を覆ってやった。 よしっと覚悟を決めて一息に持ち上げようとしたところ、ドラえもんの頭部は浮く気配すらみせないではないか。 そう言えば、ドラえもんって百二十九.三キロあるんだったな。二頭身だから頭だけで約七十五キロか。 抱えるにはちと無理がある重さだ。 「すまん。重くて持てない」 長門は無表情のままうなづくと、いとも簡単にドラえもんの頭部を抱えて出ていった。 俺はぽつねんと独り部室に取り残された。 そうなると言いたくなるいつものセリフを口にしようとした刹那、 「キョン、ちょっときなさい」 そんな轟音とともに強風に煽られる。 街を更地にするのに飽きたのかハルヒと朝比奈さんが戻ってきたらしい。 ハルヒは巨大な指で俺を掴むと、部室の外へ引きずり出した。 シャミセンの気分が分かった気がする。 「そんなことどうでもいいわ。それより今から、隠れんぼするわよ」 「隠れんぼ?」 「そうよ。あたしが鬼をするからみんな隠れなさい。あっ、みくるちゃんは元に戻っていいわよ」 そう言ってハルヒは胸からビッグライトを取り出して、不思議光線を朝比奈さんに当てる。炎天下に置いた氷のようにみるみる縮んで、俺より頭一つ分ほど小さいサイズに戻った朝比奈さんは疲れ果てたように溜め息をついた。 「キョン、ドラえもんとユキと古泉君を呼んできなさい」「ああ、僕ならいますよ」 と古泉がいつの間にか、ふらふらとハルヒの近くを飛んでいた。 しかし、ドラえもんは生首と化しているし、長門はその修理にあたっている。 適当に茶を濁すしかないな。 「ドラえもんは長門と過去に行ってる」 「え? なんで?」 「昔紛失した宝もののありかを探しに行ったみたいだ」 「そうなの。まあ、いいわ。ドラえもんとユキは後から参加してもらうから」 言い訳が功を奏してハルヒはそれ以上突っ込まずに、 「じゃあ、今から隠れなさい。範囲はあそこまでよ」 と言って丘の下に広がる街を示した。 なるほど。たしかに、学校を中心とした二百メートルほどの円状に家々が更地になっていた。 しかし、たかだかこんな遊びのために家をぶっ壊すなんて某街作りゲームの市長より無慈悲なやつだ。 「それじゃ、三分待ってあげる。真剣に隠れなさいよ。一番に見つかった人には罰を与えるから」 そう言ってハルヒは校舎に腰かけて目をつぶりながらカウントを始めた。 「キョン君、ドラえもん君と長門さんが過去に行ったってどういうことですか」 朝比奈さんが小さな声でつぶやく 。 「実はドラえもんの調子が悪くて長門に修理して貰ってるんですよ」 「そうなんですか」 そう言って朝比奈さんは再び溜め息をついた。 朝比奈さんの未来、言うなれば朝比奈さんの帰る場所が消えてしまったのだからそりゃ溜め息の一つや二つもつきたくなるよな。 「僕たちは早くドラえもん君が戻ってくるのを祈りつつ、早急に隠れた方がいいでしょう」 ハルヒのカウントはすでに百を切っていた。 俺と古泉がタケコプターで隠れ場所を見つけようと飛びたったところ、 「ひぇ、キョン君まって下さい。あたし飛べません」 と朝比奈さんに袖を掴まれて俺はバランスを崩した。 古泉は自分には関係がないといったふうにどこかへ飛んで行く。 しかたなくスペアポケットから朝比奈さんにどこでもドアを出してやってから、隠れる範囲ギリギリの場所を思い浮かべてドアを開いた。 「朝比奈さんはここに隠れていて下さい」 「え? キョン君は?」 俺は別の場所に隠れます、と言って朝比奈さんをどこでもドアの中に押し込んだ。 朝比奈さんのいずこへ売られる子牛のような顔を直視出来ずにドアを閉じる。 ドナドナを歌いたい気分にかられながら、どこでもドアを戻した俺はタケコプターの使ってカウントを続けるハルヒの元へと飛んだ。 ぐんぐんと上昇し続けハルヒの足を越え、妙に色っぽい鎖骨を越え、とうとう頭まで越えた俺は車ほどもあるバニー衣装のウサミミの部分に隠れた。 灯台下暗しさ。かけてもいい。ここならハルヒは気付かないぜ。 「さん、にい、いち……行くわよ!」 ぱちっと目を開いて、ハルヒが雄叫びを上げる。 俺の頭の中でジェット機が飛び交うような耳鳴りの中、巨大ハルヒが猛然と助走をつけてウサギのように丘から飛び降りた。 どがんと家々を木っ端みじんにしてハルヒは着地した。 あそこに俺たちがいたらどうするつもりだったんだよ。 ハルヒは頭の上で俺がそんなことをつぶやいたのも知らず、俺たちを探し始める。 その方法ってのがいかにもハルヒらしく、豪快かつ非常識だった。 まず、手近な民家を一軒両手で掴むと思い切りよく引っこ抜いて、 「いるなら出てきなさい」 と宣言し、何も返答がなければ遠くへ放り投げるといったものだ。 「あたしを止めたければ化け物でもなんでも出してきなさい!」 ハルヒは二十軒目を瓦礫に変えて怪獣のようにそう叫んだ。 多分、ほんとうにそう願ったんだろうな。 でなければあんなものが現れるはずがない。 地平線の彼方からのしのしとハルヒと同じくらい巨大な何かが、こちらに歩いてきた。 次第にその輪郭がはっきりと分かるようになって、俺は絶句することになった。 厳めしい面に、眼鏡。それはまさに古泉が作り上げたSOS団の敵役、生徒会長その人だ。 「出たわね、怪獣!」 「おい、涼宮。これはどういうことだ?」 「問答無用よ! おとなしく成敗されなさい」 そう言うなり、ハルヒは生徒会長に突進して首根っこを掴むと勢いよく地面に叩きつけた。 一本っと思わず叫んでしまいたくなるほど豪快に投げられた生徒会長は、潰されたカエルのような声を上げて動かなくなった。 これは……死んだのだろうか。 「そんな訳ないでしょ!」 「へ?」 「ちょっと投げたくらいで死なないわよ。ほら」 ハルヒは疑問符を浮かべる俺を指で摘んで、クレーンゲームの景品のように生徒会長の口元に近付けた。 その口からはヤニ臭い吐息が漏れている。 たしかに生きてはいるな。 しかし、 「いつ気付いたんだ?」 「始めから分かってたわよ。どうせあんたのことだから、灯台下暗しとか馬鹿なこと考えて隠れたんでしょ。でもね、あれだけぶんぶんうるさければ誰でも気づくわ」 俺はぐうの音もでずに黙り込んだ。 「まあ、いいわ。あんたは一番最後に捕まえてネタバラシしようと思ったけど、こいつを見張ってなさい。もし逃がしたら罰金の上、グランドを半狂乱で十周の刑よ」 ハルヒはそう言って瞬く間に倒された生徒会長の横に俺を置くと、のしのしと他の獲物を探しに行ってしまった。 まさかバレてるとは思わなかった。かけは俺の負けだな。 俺はやれやれと嘆息しながらペアポケットからスモールライトを取り出して、生徒会長を元のサイズに戻してやった。 それでも気絶を続ける生徒会長に、柔道でいう喝でも入れてやろうと考えたところでやっと目を覚ました。 「……これはどういうことだ。涼宮の仕業なのは分かっているが」 目をしばたたかせての第一声はそれだった。 やはり俺はこの人にはある種の親近感を覚えてしまう。 俺が詳しい理由を話そうとしたところで、 「いや、やはりいい。俺は面倒ごとには首を突っ込まん主義だ」 その方が懸命かもしれん。この人は古泉属する“機関”と金の関係で動いている。深く首を突っ込めばどうなるかは、この人が一番理解していることだろう。 「そういうことだ。しかし、起きたらこんなところにいるのには驚いた。“機関”だろうとこの出費は痛手だろうな。それに俺の慰謝料も払って貰わねば」 「いえ、ここは本当の世界ではないんですよ。だから、人はいません」 「ほう。だとしたら、むしり取るかいがあるというものだ」 くくっと笑い声を上げたのは本心からだろうか。 ひとしきり笑ったあと、生徒会長は元の仮面じみた表情を浮かべた。 「おい、また生徒をたぶらかしたのか? これでは密約違反だ」 「なにがだ?」 ぱっ振り返った俺の視界の隅で生徒会長が吹っ飛ぶのが見えた。 しかし、今の俺には道化を演じる生徒会長の安否など気にする余裕はなかった。 俺がいうのもなんだが妙な名前をつけられた暴虐非道な人物がいる。そいつは楽しみは自分だけで楽しむような奴だが、ハルヒはそういうことをしない。楽しみはみんなで楽しむべき、と考えているだろう。 しかし、ハルヒよ。 楽しみはみんなでやれば倍になるかもしれん。だが、恐怖や痛みは半分になったりなんかしない。等しく平等にあるものなんだぜ。 朝倉涼子の禍々しい白刃が煌めき、俺の右腿を切り裂いた。 つづく
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/903.html
「ねえキョン、あんたどんなところ就職するのよ?」 ハルヒは俺の胸に顔をうずめながら、左指で俺の乳首をいじっていた。 すでに行為は終わっていたし、感慨もなくただされるがままだ。 それにハルヒは俺の胸に寝るのが落ち着くらしく、 週末にはこうやって東京で一人暮らしをしている俺の部屋に遊びに来るのだ。 俺は大学受験を終え、東京の有名私立大学へと進学した。 ハルヒも同じ学校に進学したが、俺とはレベルの違う学科だった。 すでに能力は消えていた。 ハルヒは大学に入って最初の一年はやたらともてていたが、 ずっと俺と一緒にいたおかげで、今は声をかけるものはいなくなった。 ハルヒ曰く、 「馬鹿大勢より、大事な人一人のが価値があるでしょ」 だそうだ。 ハルヒは俺に身体をくっつけたまま上目遣いで俺を見つめた。 「ねえ、時間はあるんだし、もう一回しましょ」 「分かったが、俺は就活で疲れてるんだ、お前が上になれよ」 「分かったわよ、ちゃんと前戯ぐらいはしてよね」 「じゃあ、ちょっと横になれ」 俺はハルヒを下にして、強引に脚を広げた。 いつみても綺麗だって思ってしまうのは、ハルヒの毛が薄く、 割れ目が見えていることだけじゃない。 ひきしまった陰唇はすでに濡れていて、俺を受け入れるのには十分だった。 ハルヒは前戯が好きだ。 初めてした時、俺が舐めようとするのを拒んだが、今では整った顔を歪ませて声をあげている。 「なあ、もういいんじゃないか。十分濡れてるぞ」 「そうね。さっき一回イってるし、十分かも」 そういうとハルヒは起き上がって俺の上に跨った。 「ちょっとキョン、なんでまだこんなに硬いのよ」 ハルヒは俺のペニスを痛いほど強く握って、嫌な笑みを浮かべた。 「入れるわよ」 ハルヒの中に入っていく感触が伝わった。 「んっ…、あっ」 ハルヒは光悦とした表情を浮かべ、俺を見下ろし、ゆっくりと腰をスライドしだした。 「どう? 気持ちいい?」 「かなり」 ハルヒの中はいわゆる名器というやつで、締りも肌触りも俺とぴったりだった。 ハルヒはそれだけいうと、それ以外はなにも言わなかった。 ただ、卑猥な音とハルヒの喘ぎ声だけが狭い部屋に響いた。 「んっ、はぁ、……いや! あ! んっ…」 ハルヒは腰の動きを激しくしだした。 それにあわせて俺も腰を振った。 「ちょっとキョンなんでつくの!? いや、だめ! もう限界! んっ!」 中が急激に締まると、俺は簡単に限界を迎えた。 「で、キョンあんたどこに就職すんのよ」 ハルヒはブラジャーをつけながら言った。 「そうだな、大手の出版社なんか狙ってるんだが」 「また無理そうなところ狙って、落ちても慰めてなんかやらないわよ?」 「やってみないと分からんだろ」 「まったく」 面接当日。 「はい、お守り」 ハルヒはお守りを俺に手渡してきた。 「大学受験じゃあるまいし、要らないだろ」 「ちゃんとよく見なさいよね」 あ、そういうことか。 「大学受験のとき、これ一緒にわざわざ太宰府までいって買いに行ったでしょ? それで一緒に合格できたんじゃない。 今回もね。だから、もっていきなさいよ」 「あ、ありがと」 「まったく、それぐらいしかやってあげられることないからね!」 「分かったよ」 「頑張りなさいよ」 俺は胸が一杯になった。 たまに優しさを見せるハルヒがとても愛しかった。 それは、前から決めていたことでもあった。 「なあ、ハルヒ?」 「なに?」 「大学でたら、結婚しないか?」 「え?」 俺はもう一度繰り返した。 「大学を出て、就職をしたら、結婚しないか?」 「わ わたしはいいけどさ…。 あんたはそれでいいの?」 「いいさ。俺にはハルヒしかいないから」 ハルヒは抱きついてきた。さっきみたいな卑猥な感じじゃない。 優しく、そっとだ。 「ありがとう、でも本当にいいの?」 「ああ」 俺は抱きしめ返した。強く、力強くだ。 そして俺たちはとても静かなキスをした。 「いってらっしゃい」 ハルヒは笑顔でそういってくれた。 「行ってくるよ」 「帰ったら、ご飯の準備しとくわね」 「ああ」 ハルヒの笑顔を見つめ、そして俺は履きなれない革靴に足を入れた。 「じゃあ、行ってくる」 「早く帰ってくるのよ!」 俺はドアを開け、さわやかな気持ちで、右足を踏みしめた。 外は無駄な暑さで、空には大きな入道雲がそびえていた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6553.html
●涼宮ハルヒの分身 プロローグ ●涼宮ハルヒの分身 Ⅰ ●涼宮ハルヒの分身 Ⅱ ●涼宮ハルヒの分身 Ⅲ ●涼宮ハルヒの分身 Ⅳ ●涼宮ハルヒの分身 Ⅴ ●涼宮ハルヒの分身 エピローグ